輸送密度「2000人」基準 3セクで見る
国土交通省は鉄道に関して「鉄道事業者と地域の協働による地域モビリティの刷新に関する検討会」でJRの輸送密度2000人以下の線区につき自治体と協議して対策を検討すべきとした。
より詳細には
①の基幹的な鉄道ネットワークを形成する線区(特急・貨物列車が走行等)については、引き続きJR各社による維持を強く期待。
②危機的な状況のローカル線区(=輸送密度2000人以下)については都道府県等が中心になり、地域モビリティのあり方について関係者と検討を進めていく。
③しかし、②がうまくいかない線区は国が特定線区再構築協議会(仮称)を設置し、廃止ありき、存続ありきという前提を置かずに協議。その要件は以下の1)かつ2)である。
1)ローカル線区については輸送密度が1000人未満、かつピーク時の1時間当たり輸送人員500人未満を目安に対策を講じることが必要な線区
2)複数の経済圏・生活圏に跨る等の事情から広域的な調整が必要な線区
最終的には鉄道かBRT・バスかという選択になると思われるがどちらが公共政策的意義があるかをもとに再構築がなされることになる。かなり投げやり(特定地方交通線の指定より基準が大雑把)ではあるものの、鉄道の位置づけに対する問いかけとしては必要な施策ではあっただろう。
しかしこれはあくまで「JR」の話。地方民鉄についてはこの話が出ていない。では、これら線区についてもし、もし同様の基準を当てはめてみたらどうなるか。少し考えてみよう。
今回は平成30(2018)年度の鉄道統計年報からデータを抽出する。データは1.運輸の(2)運輸成績表である。
例えば大手私鉄だとこのようになる。当時の会社名で記載されているのでご理解願いたい。
(また、近鉄は上本町方、名古屋方、鋼索線の区分け、京阪は京阪線、大津線、鋼索線の区分けだけであったり、阪急はなぜか宝塚線がないなど一部抜けがある)
では本題。第三セクター各社(JR,国鉄関連に限る)はこのようになっている。
まずは輸送密度2000人以上の線区。
IRいしかわ鉄道 | 14,986 | |
愛知環状鉄道 | 11,770 | |
あいの風とやま鉄道 | 7,680 | |
しなの鉄道 | 5,620 | |
嵯峨野観光鉄道 | 4,406 | |
伊勢鉄道 | 3,597 | |
IGRいわて銀河鉄道 | 2,762 | |
えちごトキめき鉄道 | 2,617 | 妙高はねうまライン |
智頭急行 | 2,521 | |
青い森鉄道 | 2,304 |
特に旧北陸本線が強い。新幹線の並行在来線を除けば愛環線、嵯峨野観光鉄道、伊勢鉄道、智頭急行のみが入ってくる。
次いで、輸送密度1000人台の線区。JR線であれば今後都道府県が協議の場を持つべきとされるところである。
甘木鉄道 | 1,994 | |
鹿島臨海鉄道 | 1,875 | 大洗鹿島線 |
阿武隈急行 | 1,755 | |
北越急行 | 1,395 | |
くま川鉄道 | 1,193 | |
真岡鐵道 | 1,161 | |
えちごトキめき鉄道 | 1,017 | 日本海ひすいライン |
くま川鉄道は被災前のデータである。えちごトキめき鉄道の日本海ひすいライン(旧北陸本線)とあいの風とやま鉄道の輸送密度の差は注目に値するだろう。
次いで輸送密度1000人未満の線区。ほとんどのものがこれに該当することになる。
信楽高原鐵道 | 930 |
井原鉄道 | 885 |
土佐くろしお鉄道 | 874 |
松浦鉄道 | 819 |
WILLER TRAINS | 775 |
天竜浜名湖鉄道 | 751 |
のと鉄道 | 745 |
肥薩おれんじ鉄道 | 734 |
会津鉄道 | 675 |
野岩鉄道 | 613 |
樽見鉄道 | 602 |
明知鉄道 | 554 |
東海交通事業 | 550 |
いすみ鉄道 | 540 |
山形鉄道 | 526 |
道南いさりび鉄道 | 512 |
若桜鉄道 | 413 |
わたらせ渓谷鐵道 | 379 |
長良川鉄道 | 372 |
三陸鉄道 | 321 |
由利高原鉄道 | 308 |
秋田内陸縦貫鉄道 | 261 |
錦川鉄道 | 259 |
阿佐海岸鉄道 | 136 |
南阿蘇鉄道 | 52 |
多すぎる。ええ。とはいえJR北海道の赤線区(廃止レベル)基準である200人を下回るのは被災による暫定運転中の南阿蘇鉄道とDMV化前の阿佐海岸鉄道のみ。
じゃあこれら各線が軒並み廃止だ!という流れになると言うわけではない。各線区の特性や財務状況がJR線区と私鉄・三セク線区では大違いであるからである。細かい営業単位のほうが経営を下支えしやすいことや、JRの持っている閑散線区は設備面で冗長なものが多かったり、古くからの路線で利便性が低い(例えば建設公団線に比して)などということは理由が挙げられる。
無論第三セクター線でも上下分離の話が出ているところがある。端的な例で言えば(純粋な私鉄な例ではあるが)近江鉄道がそれである。2024年度の上下分離に向けまさに体制準備が進んでいるところである。また、第三セクター線でも若桜鉄道など上下分離の線区は実は多い。このような流れがJRに波及するという理解もできるだろう。
参考:
JR各線の動向について考察されている記事につき参考:
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