鉄道事業の採択評価が変更に?
2024年7月21日 /
鉄道を建設するかどうかの基準というのは、採算性や必要性を考慮して決められている。今般、資材高騰でその評価を見直すことに迫られた…というと少し誤謬を含むようなところであるが、とにかく鉄道事業評価マニュアルにテコ入れをするということは確かであるので、それを見ていこうと思う。
国土交通省が出しているのは「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル(2012年改訂版)」である。もちろんその中で行われているのは費用便益の比較であるが、「鉄道プロジェクト評価は、現在の科学的知見を駆使して行うものであるが、科学的知見には限界があること、また、現世代の価値観に基づくものであり、将来世代の価値観を反映したものではないことを認識し、評価手法の精度や信頼性に留意する。特に、費用便益分析の便益については、鉄道プロジェクトによる多種多様な効果のうち、貨幣換算の手法が比較的確立されている所要時間の短縮等の効果を対象に貨幣換算したものである。すなわち、多種多様な効果の一部分を計測したに過ぎない点に留意する必要がある。」としている。要は事業による効果・影響を定性的、定量的に確認し、費用便益分析と採算性分析、事業進捗の見込みをもって総合的な評価を行っている。費用便益分析は国民経済視点に立って行い、採算性分析は事業者視点になって行われるものである。
費用便益分析においては、現在の1円の価値は将来の1円より価値が高いため、社会的割引率で現在価値に割り戻して計算する。その指標でよく使われるのが
・費用便益分析(B/C)
・純現在価値(B-C)
・経済的内部収益率(純現在価値が0となる利率)
なお、その際には、一般的には費用便益比が使われているが、「「少しでも 1.0 を下回った場合は社会的に必要のない事業である」という誤った評価をしないよう、注意が必要」としている。その理由として、①便益で計算するものは学術的に計測手法が確立し、一定の精度で計測できるものに限られていること、②社会的割引率など仮定を踏まえて計算していること(現在社会的割引率は4%で計算しているが現在の社会情勢からするとかなり高い)を挙げている(なお国土交通省全体でこの指標を用いている:参照)。
便益として計算可能とされているのは、利用者便益・供給者便益・環境等改善便益・存在効果に絞っている。これらは貨幣換算が可能とされている。
それぞれ個別的な需要予測手法やアンケート手法、計算方法、留意事項などが丁寧に記載されている。ここではそれらの個別具体的な検討を措いておく。
さて、このマニュアルも2005年作成、2012年改定であるが、マニュアル改定に関する調査検討委員会がある(リンク)。そこでは、現在の評価手法B/Cに拘泥していることはかなり指摘を受けている。例えば、「評価軸の多様化は重要。B/Cが1.0以下になる事業もシビックプライドが重要との評価をする際に、どこまで考慮したマニュアルとするのか。」という踏み込んだ意見もある。B/Cでの評価になじまない例としては老朽化駅舎の修繕が挙げられており、これは官庁営繕事業での事業評価の例が紹介されている。
上記2012年マニュアルの後では、地域分断解消等の環境改善、交流人口の増加、鉄道施設のバリアフリー化、輸送障害の軽減、道路混雑の緩和、時間信頼性の向上など、効果として計算できていなかったものについて、学術的手法として貨幣計算にとらわれないものとして公開可能なものが増えていると指摘されている。また、長期的な視野を見れば社会的割引率4%がなじまないものも多いとして指摘されている。また、道路事業では一部供用をする際にネットワークを一体に評価することも行っている。
上記の委員会は2023年12月に議論のまとめを迎えている(議事録・資料は上がっていない)。また、公共事業評価手法研究委員会も実施されている。
更にいわば「ネオ整備新幹線」についての「幹線鉄道ネットワーク等のあり方に関する調査について」でも検討が加えられている(リンク)。こちらは主に誘発需要や災害への強靭化が挙げられている。こちらはミニ新幹線以外の手法をも含めた調査ではあるものの、詳しい文章が出ているわけではないので留意が必要である。
【参考】鉄道関係公共事業の評価(国土交通省)
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