加算運賃いつなくなるの? 2025年再計算Ver.

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加算運賃は、「主として新規路線の開業等に伴い発生する多額の資本費コストを回収するために、加算区間において基本運賃に加算して設定されるものである。」というのが国交省の定義である。

その特徴としては、加算運賃はその資本費コスト回収率が100%になるまでしか設定できない上に、減額・廃止した場合は、増額・復活させることが出来ないという特徴がある。じゃあ回収がどれほど進んでいるか、いつ頃なくなるのかというのは気になるところなのでこれを計算しようというものである。

計算方法

1.加算運賃は「A:新線の設備投資額」と「B:毎年かかる使用料・支払利子」を「C:加算運賃収入」と「D:基本運賃収入からの回収額」でまかないきるまで設定できる。Dについては鉄道事業が黒字なら加算運賃設定区間が利益に貢献している割合で回収額に含めるべきだ、という考え方(国交省通達)による。

2.毎年掛かる額はB、毎年の収入はC+Dである。令和6年度について、
(1)B<C+Dであるときに限り「回収のめどあり」とする。回収にかかる年数は「令和6年時点での(A+B)-(C+D)の累計額:残高」を「令和6年の(C+D)-Bの額:回収額」で除した値(小数点以下切り上げ)である。
(2)令和6年のコスト・回収額がB>C+Dの場合は(ひとまず)「回収のめどなし」と考える。折角なので、Bに対するC+Dの割合を算出している(要は無限年後の回収率ですね)。

3.なお、令和6年度末に開業したOsaka Metro中央線は別途計算している(71日しか営業していないため。)

結果

それで計算した結果がこうである。
残高:令和6年度末時点で回収すべき残高
C+D-B:令和6年で回収された額(単位は百万円)である。
回収率:通達上の回収率を計算している。
年数:上記2.(1)で計算したもの
割合:上記2.(2)で計算したもの
ここ最近の加算運賃に関連し得る動きを以下に示す。

社名 線名 残高 C+D-B 回収率 年数
京急 空港 12334 1579 89.0% 8
京成 本線 9409 576 81.0% 17
阪神 なんば 11969 597 69.6% 21
東急 新横浜 16602 765 17.1% 22
北急 南北線 10555 422 5.3% 26
JR九 宮崎空港 1402 48 56.3% 30
南海 空港 79853 1479 38.7% 54
名鉄 豊田 28753 506 52.4% 57
JR四 本四備讃 21069 370 46.9% 57
近鉄 鳥羽 6622 60 48.8% 111
近鉄 けいは① 138608 1158 27.6% 120
京阪 鴨東 44064 341 38.3% 130
JR北 千歳 3283 20 90.6% 165
南海 泉北 21182 43 14.0% 493
京成 東成田 67814 29 9.2% 2339
社名 線名 残高 C+D-B 回収率 割合
名鉄 知多新 16319 -4 20.2% 93.7%
JR西 関西空港 68238 -298 21.6% 87.0%
相鉄 いずみ野 105008 -149 18.1% 81.0%
相鉄 新横浜 19566 -605 13.2% 68.0%
名鉄 空港 41745 -542 21.5% 59.2%
名鉄 羽島 5656 -27 8.4% 32.5%
京阪 中之島 20784 -1109 19.1% 21.2%
近鉄 けいは② 74477 -1522 9.0% 20.5%
OM 中央 不明 0 0.0% 0.0%

【加算運賃関係】
2019年10月:京急 加算運賃縮減(170円→50円)(リリース
2019年10月:JR北海道 加算運賃縮減(140→20円)・運賃改定(リリース
2019年11月:相鉄 JR直通線開業・加算運賃設定(リリース
2023年10月:京王 加算運賃廃止(リリース
2023年03月:相鉄・東急 新横浜線延伸・加算運賃設定(リリース
2024年03月:北急 南北線延伸・加算運賃設定(リリース
2025年01月:Osaka Metro 中央線延伸・加算運賃設定(リリース

【バリアフリー加算・変動運賃関係】
2023年03月:バリアフリー加算(相鉄・京成)
2023年04月:バリアフリー加算(京阪・阪神・JR西)
2025年04月:JR西日本 関西空港線含め電特拡大・バリアフリー加算(HP
2025年10月:バリアフリー加算廃止(京阪:リリース

【運賃改定関係】
2023年03月:東急 運賃改定(リリース
2023年04月:近鉄 運賃改定(リリース
2023年05月:JR四国 運賃改定(リリース
2023年10月:京急 運賃改定(リリース)・南海 運賃改定(リリース)・泉北 運賃改定(リリース
2024年03月:名鉄 運賃改定(リリース
2025年04月:JR北海道 運賃改定(リリース
2025年04月:JR九州 運賃改定(リリース
2025年04月:南海・泉北 合併に伴う運賃引き下げ(リリース
2025年10月:京阪 運賃改定(リリース

分析

回収が見込まれる線区

【京急空港線】
2019年に170円から50円に改定しているがそれでもなお順調に回収が進んでいる。この後8年間と見込まれる。これに合わせて戦略的な値下げを更に行うことも充分考えられよう(Bとの均衡を兼ね合いを考えると20円程度への引き下げではなかろうか)。ちなみに、加算運賃引下げ前のペース(2018年度)だと、2年半を待たずして回収が完了してしまうことになる。なお、2018年度は以下の通りである。

施設利用料 :9.63億円
加算運賃収入:62.36億円
 (※これを5/17倍すると18.34億円で、加算運賃収入でいうと実は今年の方が多いことになる)
基本運賃からの回収:3.48億円

一方で、設備投資に対する加算運賃制度が導入される(弊記事)ことを考えると、新線加算を減らして設備投資加算にすげ替えるということも考えられよう(現在羽田空港第1・第2ターミナル駅の引き上げ線新設工事を実施中である:京急リリース)。

【京成本線】
京成成田ー成田空港間に140円で設定している同線区だが、今のところ動きは見られない。成田スカイアクセス線開業後回収が鈍化しているようではある(2012年度公表資料より)。もっとも、ここまで順調であると、引下げについて具体的な検討があってもいいような気もするところである(こちらも成田空港駅自体の設備改良などで単純な話にはならないと思われる)。

【阪神なんば線】
関西でも屈指の高額な加算運賃を設定している路線で、なおかつ現在加算運賃スキームが成功している稀有な例である(なお、過去の収受状況を見る限り、2024年はより順調であると思われる)。なんば線は西大阪高速鉄道から借り受けて営業している路線であり、2024年度末までに241億円を支払い済、残り24年で残り360億円を支払う必要があることとなっている。概ね1年あたり15億円の支払いである。このままでいくと、支払いに充てるための加算運賃が3年ほど早く終了してしまうことになり、どこかで引下げを考えないといけないのではないかと思われる。

【JR九州宮崎空港線】
現在130円で設定しており、30年ほどで回収できる。こちらも、今すぐ、何らか変動する要因を持っているとは言いづらい。

【南海空港線】 去年よりも好調であることは確かである。

【名鉄豊田線】
梅坪~赤池間に設定されている。2018年度ベース(リンク)での利用・収支となれば、37年程度で回収が完了する可能性がある。なお、参考までに記載すると、2006年12月に瀬戸線の加算運賃廃止・manaca導入に合わせて加算運賃を引き下げている(リリース)。

留意が必要な線区

【JR四国 本四備讃線】
Bに当たるところが本四使用料で、道路との共用部の維持管理等に係る費用の当社負担額となっている。なお、鉄道関連部分の更新費用は2020年12月からJRTTが負担することとなっている(国交省資料)。Bの額が2020年度まで6.5億円程度であったところ、2.3億円程度まで下がっている。結局これで回収が進むという結果になっているわけである。

【東急新横浜線】
いかにも順調そうに見えるが、これはJRTTへの支払が最初の3年は抑えめで設定されていることによる。JRTTにより整備された相鉄・東急新横浜線は両社がJRTTに線路使用料を支払っている。線路使用料は各社の受益額(=収入変化と経費変化の差額)で決まるが、加算運賃を設定しないとJRTTの累積収支が基準を満たさない(30年程度で累積資金が好転しない)ので、加算運賃が設定されている。東急の場合、2026年度以降は2479百万円を使用料としているが、当初の定着率を踏まえて事実上2年めとなる2024年度は1037百万円に抑えられている(鉄道局)。線路使用料を上回り続ける形で利用が見込まれれば加算運賃の引き下げもあり得るが、22年での廃止とならないことは確かである。
なお、需要定着率75%で加算運賃収入が、1553百万円となれば、これを75/100で割れば2071百万円となり、2026年度以降の線路使用料を下回ることになると思われる。

【相鉄新横浜線】
上記がダブっている例である。各区間の使用料を示しておこう(JR直通時点の資料:鉄道局)。

  西谷ー羽沢 羽沢ー新横浜
2019年度 474百万円  
2020年度 948百万円  
2021年度 1231百万円  
2022年度 1515百万円 31百万円
2023年度 1515百万円 364百万円
2024年度 1515百万円 739百万円
2025年度 1515百万円 1114百万円
2026年度 1515百万円 1677百万円
以降 1515百万円 1677百万円

※西谷ー羽沢横浜国大間:1年目の定着率80%、2年目90%、3年目100%
※羽沢横浜国大ー新横浜間:1年目の定着率65%、2年目75%、3年目85%、4年目100%(東急も同じ)

【Osaka Metro中央線】 ※まだデータが出ていません
運輸審議会の資料及び申請書を見ると、2024年度の利用者数について推定できる箇所がないのである。万博終了後の想定来訪者数は記載があるが、百万人単位で四捨五入されているのでアテにならない。線路使用料が740百万円なので、2026年度以降はいったん相当数字が悪化するが、IR開業後の想定(運輸審議会)は線路使用料よりは回収しているようである。

回収が困難である線区

【JR北海道千歳線】
加算運賃を140円から20円に引き下げて以降、施設使用料(B:2.2億円)を加算運賃収入が超えたことはない。恐らくこのまま加算運賃を維持して2億円弱の貴重な収入源としようとしているのだろう。なお、JR北海道の決算によれば、鉄道運輸収入全体は766億円である(リンク)。

近鉄鳥羽線・京阪鴨東線・けいはんな線(長田ー生駒間)・南海泉北線・名鉄知多新線・京成東成田線
回収すべき額が一応減っている路線ではあるものの、100年以上かかると見込まれている。例えば、けいはんな線(長田ー生駒間)は回収額(C+D-B)だけを見れば京急空港線に匹敵するが、残高に当たる額が10倍程度となっている。

近鉄けいはんな線・京阪中之島線・相鉄いずみ野線・名鉄空港線・名鉄羽島線
線路使用料等(B)が、回収額(C+D)を上回り続けている路線である。

参考 過年度版

2024年度版は こちら
2023年度版は こちら
2022年度版は こちら ※これ以前は計算方法が異なる
2021年度版は こちら