「必殺徐行」を考える
▲芸備線の速度制限の標識
「必殺徐行」という言葉をご存知だろうか。軽く説明するならば「JR西日本のローカル線区に於いて散見される25km/hの徐行」である。
数十メートルから200メートル弱で細かく、或いは1km前後ざっくりとした指定をしていることが多い。このような区間の特徴を挙げるとすれば
①そもそもカーブがきつい
②崖の横を通るような区間で、片側は崖
③また、もう片方は整備のされていない法面
④直線区間であれば橋梁上を通る場合もある
⑤トンネル前後でも設定されていることがある
といったところであろうか(当然それら全てを満たすわけではない)。
そしてこれらの徐行区間設定はかなり細かく、丁寧に設定されているようで、例えば芸備線の新見ー東城間では坂根駅前後の2か所であるのに対し、東城ー備後落合間では10か所以上設定されている。
もし前後の区間が60km制限、当該徐行区間が1kmとすれば所要時間は84秒の延長、前後の加減速区間を含めれば前後おおよそ10秒づつ所要時間が増えているのではないだろうかと推測される。
芸備線の備後落合~比婆山、あるいは道後山~備後落合の区間だと合計で2km程度、6か所くらいの徐行区間がある(はずである、実際に徐行区間の距離を計算したわけではないのでアバウトさはご容赦いただきたい)。とすると上記の計算からすれば4分半程度駅間所要が伸びている計算になる。
では、このような徐行区間を敢えて(しかも所要時間はかなり伸びる)設けている理由は何だろうか。
「必殺徐行」という言葉自体はインターネットミームになっており、「作業員の巡回による保守点検を廃止した区間などで運転士が目視による安全確認を行いながら列車を運行するため、列車の速度を時速25km/h程度に制限し、保守点検にかかる費用をケチること」などとするサイトもある(引用:ニコニコ大百科)。
しかし、線路や路盤の保守整備を手抜きにしているとすれば、該当区間だけを手抜きにするのであれば線区全体で手抜きにしているはずである(逆にこれだけ細かく狙い撃ち的に保守を手抜きするほうがお金がかかりそうだ)。
また、運輸安全委員会の報告書を漁ってみる限り芸備線では東城~備後落合間を列車7日、徒歩70日の間隔など(参考)など、少なくともこのような保守点検において極端に回数・頻度を減らしているとまでは言えなかった。
例えば、近江鉄道は8日(参考)、大船渡線は4週(参考)、富山地鉄の本線は5日(参考)、外房線は2週(参考)、長良川鉄道は7日(参考)、会津鉄道は10日(参考)、上越線は4週(参考)、大鰐線は7日(参考)などとなっている。
そこで調べてみるに、必殺徐行の必要性を調べてみると、島根県議会の議事録に行きついた。
先日、鉄道関係者から、山間地を走る木次線、三江線で落石や倒木によりあわや事故になりかねない事例がたびたびあり、事故発生防止のための点検をするとともに、木次線では20カ所、三江線では46カ所において徐行運転をしながら安全確認をしつつ運行しているということを聞きました。この落石や倒木が、鉄道敷地内での発生であれば、鉄道管理者のほうで防止対策をとることもできるのですが、敷地外の沿線の山からの落石等では防ぎようがないとのお話でした。
ーーー平成21年2月定例会(第6日目) 角智子議員発言より
JRにおかれましては、現地調査をくまなくおやりになりまして、斜面防災カルテ、こういったものをどうもおつくりになっているようでございます。現在、これをもとに大体2年に1回程度、それぞれの現場の確認調査を行い、危険と判断された箇所には、計画的にのり面ブロックでございますとか擁壁、あるいは落石検知装置、こういったものの整備をしておいでになるというぐあいに伺っております。しかしながら、議員御指摘のように、JRの沿線というのは、県内で大体400キロございまして、またその周辺の土地の形状、あるいは所有関係というのも、その箇所箇所でまた全く多様でございます。これらに対してJRだけで対策を実施するのはいかがなものかという感じを持っております。
こうした中で、実は3年前になりますが、平成18年7月の豪雨災害で、三江線で、これは旧江津市内でございますけども、大変大きな事故が、落石といいますか、斜面の崩壊事故がございました。この復旧に当たりましては、JR単独ではなかなか難しかろうというようなことで、地元の自治体、それから県など関係者が連携をとりながら復旧工事の実施に当たりまして、結果的には早期の全線運行再開にこぎつけたところでございます。
ーーー同 地域振興部長発言より
少し考えてみると、鉄道の制動距離を考えると25km/hだと40m、60km/hだと200m程度になるはずである。そうなると40m先までを見通しながら運転し、落石等があればブレーキを掛ける。という動作ができるはずである。
実際、芸備線の備後八幡~内名間で落石との接触・脱線が起こった事故でも、脱輪こそしたものの運転士に怪我がない状態となった。これを60kmで走っていれば大事故になっていたかもしれない。(参考: 芸備線 列車が落石と接触して脱線した件について)
敷地外の落石に対する対応を鉄道会社の責任によって行うとなればこれ以上の方法がないのだろう。
また、JR西日本からすれば福知山線脱線事故や津山線での脱線事故でこの辺りの対応に対して過敏になっているだろうし、特に軽いキハ120系気動車が運用されている線区を中心に実施している(※呉線や紀勢線でも実施している)ことからすると事故の可能性を下げるにはこのようにせざるを得ないのだろう。
また、鉄道敷地隣接の土地(やそこから伸び散らかす草木)への対処もしやすい制度になっているかどうかは考え物である。
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