JR西 電特拡大 運輸審議会資料を見る【論点多め】
post-6476/ 2024年8月11日
運輸審議会は7月25日、JR西日本から申請のあった鉄道の旅客運賃上限変更認可申請事案について認可することが適当と答申した。その資料が8日に公開、9日には答申通り認可されたのでJR西日本の意図や鉄道事業法上の問題点を見ていこう。
運輸審議会 諮問関係事案の審議状況(次年度以降は令和6年度をクリックのこと)
JR西日本の申請内容はざっくりこうである。
国鉄時代運賃体系が変更されていない京阪神圏について、バリアフリー加算の平仄も考えて
「大阪環状線区間」:賃率13.25円
「現・電車特定区間」:賃率15.30円
「新・電車特定区間(現幹線区間)」:賃率16.20円
について賃率15.50円(現・電車特定区間の1.3%値上げ)+バリアフリー加算を統一に統一する
というものである。適用時期は2025年4月1日からである。
これまでの経緯
2022年3月1日:鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会でのJR西日本資料(リンク)
・認可申請が会社全体のみであること
・複雑な運賃体系が現状に合っていないことを指摘
2023年4月1日:運賃改定(リンク)
・特定区間運賃(34区間)と6カ月通勤定期運賃(65区間)を改定
・参照として国有鉄道運賃法5条2項(1,3カ月運賃の割引率は最低50%、6カ月は最低60%)
2023年4月1日:バリアフリー料金制度適用(1段階目・リンク)
2024年4月22日:NHK報道(JR西日本 来年春に京阪神エリアなどの運賃体系を統一へ調整)
2024年5月15日:申請ニュースリリース(京阪神都市圏における運賃体系の見直しについて)
2024年7月25日:運輸審議会答申(リンク)
2024年8月9日:国土交通大臣認可(リンク)
2025年4月1日:バリアフリー料金制度適用(2段階目・リンク)予定
・適用拡大路線(在来線)は山陽線(網干ー西明石)・福知山線(尼崎ー新三田)・山陰線(京都ー亀岡)・湖西線(京都,山科ー堅田)・東海道線(京都ー野洲)・奈良線(京都ー城陽)・片町線(長尾ー松井山手)・関西空港線
新電特区間の範囲の設定範囲は?
まずそもそもの問題としてなぜ新規の電車特定区間はあの範囲なのか?ということである。その考え方としては
・京阪神都市圏で同レベルの輸送サービス(本数など)が提供されており
・一定程度の輸送密度(3万人以上)を有する線区(及び一体のエリアにすべきとされる線区)
としている。一定の輸送密度が3万人とされたのは現・電車特定区間で運転本数・利用者数が最も少ないのがおおさか東線であり、朝ラッシュの運転本数が7本/時・3.5万人である。確かにこの考えからすれば東海道・山陽線の電車特定区間が網干~大阪~野洲となることも納得である。このあたりは第2回の説明資料(リンク)がわかりやすいだろう。
パブリックコメントにて
ちなみに◎で書いてるのが私の書いた意見です。国土交通省のお役人を困らせてしまってるぜ…
・列車本数を戻さないのであれば一定の配慮は必要である。
→列車本数は総合的に判断していく
◎「同レベルの輸送サービス」となる区間は播州赤穂・上郡・近江今津・長浜辺りまで入るのではないか?そのような理解からすれば鉄道事業法上16条9項1号の差別的取り扱いで変更命令を出す必要があるのではないか。
→JR西日本の上記判断(大阪駅からの100km圏内で一定の輸送密度、運転本数が確保されている線区を選定していること)や運賃の適用方法を踏まえれば変更命令に該当しない。
・拡大区間が恣意的、戦略的である(例:奈良線の城陽~奈良間、片町線の松井山手~木津間)
→JR西日本がエリアを選定している
変動運賃制が適用できるのか?
国土交通省としては、「運賃収入の増加を目的としない運賃の上限の変更に関する処理方針」で審査するとしている。同通達では「旅客需要の平準化等による利用者利便の向上を目的に」実施するものとしている。
運賃収入が増加しないとする検証方法は、新電特区間での旅客利用を現行運賃・新運賃でそれぞれ計算して現行運賃≧新運賃となるかどうかで計算するとしている。3年の期限を付して許可し、仮に増収となっていた場合、利用者への還元を実施するとの方針である。3年間(2025年度~27年度)の間には万博があるが、効果検証はこの3年間の中で現運賃と新運賃での領収額を比較することとしている。
また、2027年度が終わった場合、現行制度のままだと更に3年間ごとに許可を受け続けるということになるとしている。
平年度の推計は2023年度第4四半期(2024年1~3月)のみで行っている。推計方法としては2019年度(第4四半期の数値を2018年度に置き換えたもの)で第4四半期が占めている割合を計算し、2023年度第4四半期の輸送量がちょうどその割合になるように変形したものである。2023年度四半期の需要が定常状態であるとする前提で計算している。
JR西日本の見解としては、基礎的な利用変動以外に関しては、
新幹線など中長距離利用の商品体系見直し(割引施策からポイント施策への転換による発売単価増)と需要創出(WESTER アプリ(MaaS)等のコンテンツ充実による旅行需要の喚起、インバウンドの西日本エリア地方部への広域周遊の誘客)のほか、着座サービス(指定席)の充実による料金収入を想定したもの
(https://www.mlit.go.jp/common/001758622.pdf)近畿圏の基礎的なご利用については、コロナ禍前の 2019 年比において、第4四半期は 96%の戻りになっている。これをベースに今後 95%程度で推移するのではないかと想定している。
(https://www.mlit.go.jp/common/001758678.pdf)
としている。太字にしたあたりが気になる方は多いのではないだろうか。
運賃計算の推計もかなり大雑把で、現電特区間内での定期券の先買いとうるう年を除いては特段の処理をしていない。例えば他社への需要変動などは観念していない。実際値上げ額は10円、20円程度である。
同処理方針が策定されたのはJR東日本がオフピーク定期券を設定するためである。そのため、目的も「旅客需要の平準化等」との記載に留まっている。この点運輸審議会委員からも質問があり、変動運賃制実施にあたるかの質問があった。
パブリックコメントにて
◎変度運賃制は通達ではなく鉄道事業法で定めるべきではないか?(JR西日本の気持ちはわかるが法令には適合していないのではないか)
→国土交通省としては上記通達を適用して、「、適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないとみなす(法16条2項)」こととしている。
◎JR西日本の申請はそもそも変動運賃制か?
→「当該処理方針は旅客需要を変動させることを目的とするものに限定され」ない
→「今般の申請のように全体として増収しない範囲で割増の運賃と割引の運賃を組み合わせて運賃体系を見直すこと」も変動運賃制にあたる
◎3年の期限を過ぎるとどうなるか?効果検証を行うのはいつか?
→再申請が必要。3年の実施期間中に行う
◎今回の「利用者利便性の向上」とは何を指すか?
→わかりやすい運賃体系になること。バリアフリー設備の整備を加速化し安定輸送を図ること。今後時間帯別運賃といった利用状況にあった新たな取り組みを実現しやすくなること
・値上げの必要性がなく却下すべき
→通達に従い処理する
(私見:正直鉄道運賃の設定は各社の裁量であることと変動運賃制の中身を理解せずに取りあえずコメントしている可能性がありそうです)
・運賃体系の統一だけなら賃率を上げる必要はないのでは?
→増収にならない範囲(1.3%)で引き上げている。
・10kmまで(対キロ区間制で設定)の改定についてはどういう意味か
→同様の考え方である。
・他社線への転移があることを考えないといけないのではないか
→特定運賃が設定されていて、なおかつ特定運賃は変更しないので僅少な変動に限られるはず。
バリアフリー加算を理由とした変更は妥当か?
バリアフリー料金制度は1乗車につき10円を運賃に上乗せして徴収している。JR西日本の駅では現在電車特定区間内で実施されている。別にバリアフリー料金制度の対象区間を単に広げればいいのではないかという意見に対してはそれだと運賃の逆転が起こるとの回答があった(例:大阪→野洲と大阪→篠原)
パブリックコメントにて
◎JR東海は運賃逆転を許容しているのであればバリアフリー加算を理由に含めるのは不適当ではないか
→その点は承知している。しかし、JR東海も価格逆転ケースを調整しているし、JR西日本だと線形が入り組んでいるので大変なことになると考えている。
特定区間の処理は妥当か?
今回JR西日本としては私鉄競合区間で設定している特定区間(基本32区間とその内方にあたり調整をかけている114区間)については変更せず、それを上回るようになった48区間について内方調整を行うこととしている。
例えば京都ー三ノ宮、元町、神戸(基本運賃1270円→1290円、特定運賃1100円)の例を見てみると
現在は京都発の場合、芦屋~六甲道へは1100円、間の摩耶・灘が1270円のところ内方調整で1100円になっている。運賃改定に合わせ1100円の区間が1110円になるため、新規に芦屋~六甲道間も1100円の特定運賃を設定する。
このような特定区間運賃はについて運輸審議会委員から「特定区間運賃について、他社を意識して低く抑え、上げることができないということはあるのか」という問いがあり、鉄道局は「他社を意識している面はあると思う」と回答している(リンク)。
パブリックコメントにて
・運賃格差が2割を超える区間があり、通達(平成12年鉄業15号)からすれば鉄道事業法上、16条9項2号の不当競争の条項に該当し、運賃変更命令の対象になるのではないか?
→JR西日本の特定運賃を並行鉄道事業者との運賃水準の差を緩和し、利用しやすくするために設定している。2023年4月にも一部見直したため、今回は据え置きにしている。そのような状況を踏まえれば国土交通省として変更命令を出すに至るとは考えない
その他の論点
・原価計算書(施行規則32条3項)が添付されておらず不適法な申請である
→変動運賃制の通達で処理しているため問題ない。
・収入原価算定要領についてどう考えているか。基準を緩和すべきではないか
→まだまだ検討が必要であると考えている。
・営業キロ表を提出させるべきである。大手私鉄各社は出している
→義務書類ではないが、各社には説明が重要であることを説明していく。
・JR東日本の電車特定区間も変更すべきだ
→運賃については、一義的には鉄道事業者が検討するものです
・空港鉄道により加算運賃を設定できるべきだ
→運賃は移動の対価でしかないから、駅の利用者特性によって価格を上積みすることは難しいと考えている。
JR西日本への意見聴取にて
大阪環状線内ではかつて利用者が特に多かったが現在は利用が電車特定区間と均衡している。大阪環状線内の賃率は昭和57年から変更がないが、当時大阪~天王寺において180円、現在200+10円、大して市営地下鉄は当時160円、現在280+10円である。
・総括原価方式での改定はできなかったのか
→経営努力で黒字化しているので運賃改定の余地がなかった。今回の変動運賃制で旅客需要の増減は相殺されている。
・都市圏の拡大と運賃水準の差はどのように生じているか
→最も大きいのは輸送改善による新快速の増便である。
・今回値上げとなるエリアにおいて、以前より列車の本数が減っているといった話もあるが、今後どのように考えているか
→一方でコロナ禍を経てご利用状況が大きく変わっている。今後列車の運行本数については、ご利用状況を見ながら、総合的に判断していきたい。
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