JR西日本”ローカル線”輸送密度と今後の在り方

2024年4月26日JR各社/三セク国鉄,ダイヤ改正

2月、JR西日本の社長記者会見で、ローカル線の在り方の見直しを進める旨の発言があった。

 最後に、冒頭申し上げた構造改革の加速とさらなるコスト削減についてです。
 今後、新型コロナの感染がある程度収束に向かうとともに、ワクチンの接種が進み、ご利用が回復軌道に乗ることを期待していますが、その時期はまだ見通すことは出来ず、来期も非常に厳しい状況からのスタートを覚悟しています。
 これまでも申し上げているとおり、10年後の未来が1年で来た状況であり、一過性ではない行動変容が拡大しつつあると認識しています。
 (中略)
 列車ダイヤについては、来月のダイヤ改正で終電の繰り上げ、特急列車の不定期化、一部列車の減便を行いますが、今後とも近畿圏も含めて進めます。
 (中略)
 さらに、これまで内部補助によって成り立ってきたローカル線の今後のあり方について課題提起をスピードアップし、関係の皆様方と一緒になって、持続可能な地域交通を実現していきたいと思います。
(上記ニュースリリースより抜粋 太字は後から付した)

となればローカル線の存廃はかなり気になる部分である。国鉄時代赤字線整理を免れた路線の中でも状況が厳しい線区は数多くある。JR西日本がHPで公表している輸送密度を見て今後考えられうる状況を考察したい
参照するデータはこちらである。

この中の2019年度平均輸送人員すなわち輸送密度が1000未満、あるいはそれに近い計21線区を取り上げたい。

1 岩徳線 全線 1246
岩徳線は岩国と徳山を山陽本線より山側で短絡する路線で、新幹線の運賃計算も新岩国と徳山を挟む場合、岩徳線経由扱い(の運賃計算キロ)となっている。そのためもし岩徳線が廃線、三セク転換となるとかなり影響が出るから恐らくないだろう…と思っていたが、国鉄転換直後の1988年4月のダイヤを見ると昼間時間帯も毎時1本は確保されていた路線で、それが現在かなりの割合で減便されているため怪しいのではないか…とにらんでいる。

2 播但線 非電化区間(寺前~和田山) 1246
岩徳線を取り上げたいために巻き込まれている。電化区間(寺前~姫路)が8000(=国鉄転換の際の幹線の基準)を越えているし、北近畿と阪神を結ぶ特急列車が走り、ICカードが使えるようになるなどのテコ入れがあるから、路線網の一部として維持しないと(つまり電化区間だけ残すと)むしろ悪影響を及ぼすと考える可能性が高いだろう。

3 関西本線 非電化区間(亀山~加茂) 1090
このうち加茂~柘植は関西近郊区間である。最悪のシナリオは「経営改善のために減便(毎時1本から2時間に1本など)→利用者がかなり減る→存廃問題の浮上」であろうか。

4 紀勢本線 新宮~白浜 1085
紀伊半島の南側を沿う区間で、特急くろしおと普通電車がそれぞれ2時間に1本程度づつである。特急減便がかなり続き苦しい状況ではあるが新車227系の導入での効率化がさらに進むのであろうか。また上記関西本線とは異なりここを廃止すると長大な盲腸線が2本出来上がることになるので路線網としての維持の必要がかなり高いところである。

5 姫新線 播磨新宮~上月 932
姫新線の兵庫県区間で高速化事業と新車導入が地元の期成会主導で実施されている。先の姫路~播磨新宮間の輸送密度は約7300で、こちらは毎時2本(+α姫路~余部間)の運転であるが播磨新宮~佐用間は1~2時間に1本である。ここは地元が積極的な印象があるのでそこまで問題にはならないだろう。

6 姫新線 上月~津山 413
一方その先、岡山兵庫県境を含む側はさらに厳しい状況。キハ120の運転区間であるが、それよりも気になるのは後述の区間である。

7 姫新線 津山~中国勝山 820 中国勝山~新見 306

意外と津山~中国勝山間が多い印象である。まず廃止があるとすれば駅間も長い中国勝山~新見か、と思いたくなるがそうなると津山~中国勝山間も巻き添えを食らいそうなのが心配なところである。津山から上月方面より廃止されそうなのはこちらという印象である。

8 因美線 東津山~智頭 179
岡山鳥取県境区間。急行砂丘が去って智頭線が陰陽連絡となったためローカル輸送に切り替わったところである。岡山県内がかかわる部分で廃止され得るのはまずここだと見込んでいる。津山から智頭まで約1時間であるが、津山→佐用→智頭で遠回りしても90分強~2時間弱である上に、因美線の本数が極端に少ないから佐用経由のほうが早いことが多いという有様であるからだ。災害時のバイパスとしてはある程度機能するかもしれないが、そもそも災害に弱い(徐行区間が多い)区間という印象があるためその役割もそこまで期待できない。

9 小浜線 全線 991

ここは即座に三セク化の話が出ると言うわけではない。北陸新幹線が敦賀まで開業する際、あるいは新大阪まで全通する際に湖西線ともども並行在来線として扱われる可能性がなきにしもあらずといった状況だ。現在の運行本数は1-2時間に1本だ。

10 越美北線 全線 399
福井県内で存廃が議論されるならまずここだ。全9往復のうち途中の越前大野までが約半分。そこから先九頭竜湖まで4往復半だ。実際年末の青春18きっぷの時期に乗ったときでも、越前大野まではキハ120に満杯だったが、そこから先は我々の集団ともう1組のみだった。有り得そうな方策は越前大野までの第三セクター化ないし私鉄への移管であろう。そこから先の鉄路はかなり情勢が厳しい。

11 大糸線 糸魚川~南小谷 102
松本と糸魚川を結ぶ大糸線の北側、非電化区間である。電化区間はJR東日本の管轄でこちらは特急が乗り入れる路線であるが、糸魚川~南小谷間はわずか9往復の運転である。えちごときメキ鉄道が引き継ぐとも思えない区間なので、三セク化はやはり考えにくいだろう。

12 山陰本線 城崎温泉~浜坂 693 浜坂~鳥取 921
兵庫県と鳥取県の県境区間である。今のところ1~2時間に1本ある区間なので上記の関西本線と同様「経営改善のために減便→利用者がかなり減る→存廃問題の浮上」が最悪のシナリオである。

13 山陰本線 出雲市~益田 1177

岩徳線を取り上げたいために巻き込まれている。ここの廃止の話が出てくるときは山口線辺りとも絡んでくる場合であろう。

14 山陰本線 益田~長門市 271 長門市~小串+仙崎支線 351
島根山口県境とその先の区間である。仙崎支線は手っ取り早く廃止される話が出てもおかしくない。全線が長門市内で完結しているから交渉がしやすいと考える可能性もある。またこの区間(益田~長門市~小串~下関)は特急列車が走っていない上に、山陰本線の中で本数が一番限られる区間である。というより山口線に特急を直通運転するなら鳥取島根県側ではなく、山口県側つまり長門市方面からというのは県内の移動を図るものとして考えられるべきではないかとも思うが…。

15 美祢線 全線 478
貨物輸送のおかげで幹線に分類されている区間である。路線網として考えると山口線が近く(と言っても遠いが)にあると判断されれば存廃の議論がでかねない区間だろう。ただそれより危ないのは上記の益田~長門市間であるから先に机上にあげられるのは益田~長門市間であろうかと思う。

16 芸備線 備中神代~東城 081 東城~備後落合 011
岡山広島県境で山間の路線である。別に東城で運転系統が分断されているわけでもないのにわざわざ別記しているのに意図ありげに感じてしまうし、その上JR西日本の区間で一番輸送密度が少ない区間であるから当然一番最初に合理化の対象になるだろう。その際、東城~備後落合間だけが廃止となるとは考えづらい。

17 芸備線 備後落合~三次 215
こちらは木次線を経由して陰陽連絡としての機能を持っていた路線である。また今のところ臨時快速庄原ライナーなどの列車を運転しているため、上記区間(備中神代~備後落合)よりかは存続の可能性が高いと推測している。

18 福塩線 塩町~府中 162
福山から塩町を結ぶ区間のうち非電化区間である。私鉄として開業した福山~府中間は電化しており現在でも毎時2本程度運転しているが、こちらの区間は6往復(+臨時列車1往復)となっており定期列車は朝夕の運転となっているため、通学通勤輸送だけを担うならバス転換も検討されるのではないだろうか。

19 木次線 全線 190
芸備線とともに広島からの陰陽連絡線となっていた路線。トロッコ列車奥出雲おろち号も走っているが、保守工事のため木次以南は定期的に運休する列車がある。JR西日本のHPには全線の輸送密度しか載っていないが、出雲横田~備後落合間は3往復(-一部定期運休)であることを考えれば格段の差があると容易に推測できる。

20 山口線 宮野~津和野 678 津和野~益田 535
美祢線とともに山口県内を通る陰陽連絡線である。特急おき号3往復が通り、SLやまぐち号も運転されていること、国鉄時代からそこまで運転本数が減っていないことから考えると廃止の可能性はそこまで高くないと考えている。やはり運転本数がさらに減らされると利用者がさらに減るだろうという当たり前の帰結を書くしかない。

21 小野田線 全線 444
居能~小野田間と雀田~長門本山間の支線を持っている路線。支線は現在3往復の運転となっている。宇部線はLRT化の構想が取りざたされたこともあるが、小野田線は果たして…

少し粗雑になった部分もあるが、少なくとも積極的施策ではなく消極的な減便が続いている部分は鉄路が失われる可能性が高いということは言うまでもない。