【書評】旅とキャッシュレス

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あまりやったことのない試みであるが、同人誌の書評を書いてみようと思う。今回取り上げるのは「京都大学キャッシュレス友の会」が発行した、「旅とキャッシュレス」である。ちなみに著者も私もは鉄研の会員なので、先行してレビューをするという形になった。

頒布については同会のツイッターを参考にされたい。

今回のレビューとしては、できる限りネタバレを行わず、やや辛口に行うというのを旨としたいと考えている。

さて、本誌は利用者目線に立ってキャッシュレス決済の利用法について詳しく述べたものであるが、やや読み方に注意したいところがある。ここにおける旅行手段とは主に「JR」と「飛行機(特にJAL・ANA)」を指しているようであり、バス・民鉄については書かれていない。また、キャッシュレス決済と言っても、すでに人口に膾炙しているからか、ICカードは大幅に省かれており、もっぱらクレジットカード決済が前提となっている。

記載順序についても総論(JR→飛行機→クレカ)→JR→飛行機→実践編という形になっていることにも注意して読む必要がある。全体として、コンパクトにまとめようというところがあるため、行間を理解していないとややしんどいという印象がある。特に、総論のうち、飛行機の利用においては、読者の関心である特約運賃ではなく、一般的な話題に終始しているため、その後の話とのつながりが分かりづらい。

次章の鉄道とキャッシュレスにおいて、JR西日本については、キャッシュレス決済利用(つまり運賃部分=ICカードと料金部分=e5489での決済のみで足り、みどりの窓口・券売機のお世話にならないで済むようなもの。例えば、チケットレス特急券やJ-WESTチケットレス、トク特チケットレスなど)についての記載が特段なく、もっぱらWESTERポイントで引き換えられるきっぷと、同ポイントのため方についての説明がなされている。どちらかというとWESTERポイントに使い慣れた人向けの記述が多く、ポイ活向けの情報が多い。JR東日本、JR九州についてはほとんど情報がないと言わざるを得ない。JRのチケットレスについての分析は、乗車券部分・料金券部分、また在来線・新幹線について冷静に分けたうえで、チケットレス決済の種別(ICカード・クレカ・ポイント決済)ごとにどこにどれだけのメリット(安さ・簡便さ・予約変更の柔軟性)があるのかを書き、そのうえでどのようなクレジットカードが適しているのか(これは他の交通モードをまたいで書くことになるだろう)ことになるのではないかと思われる。

先に述べたのは、JAL・ANAの利活用についても同様である。こちらはポイ活的な要素よりも、スカイメイト・スマートU25などの特約割引を中心に書いている。ここについても残念なのは、特典航空券・若年割引、それぞれのメリットデメリット制約を比較することには至っていないということである。

旅程編については、これも簡便な記載に伴っているところで、いつまでに予約しなければならないかなどを看過しているものと思われる。最後のデータ編については、まさに運輸各社が散発的にニュースリリースをするところを俯瞰的に確認するという意味で優秀なものである。もっとも、デジタルは消えゆくのを紙に残してこそと評価するのはキャッシュレス友の会の会誌への評価としては皮肉なものであろう。

さて、一応一通り、辛くはなってしまったものの論評した。今後も同会は出版を予定しているとのことであり、折に触れて会誌を購入できることになるであろう。また、私があえてここまで突っ込んだことを書くのも著者が優秀なればこそであるから、今後の改版・新刊を期待したいところである。

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