JR東海 中央リニア新幹線の工費を再試算【11兆円】
JR東海は「中央新幹線品川・名古屋間の総工事費に関するお知らせ」なるニュースリリースを発表した。リリースの体裁上投資家向け情報となっている(もっとも決算短信も出ているし、自社株買いの話も出ているが…)。気になる点をざっと見ておこう。
総工費については、2014年の工事実施計画(その1)の申請時(リリース)、2017年の(その2)申請時(リリース)は5.52兆円と見込んでいたところ、2023年12月に工事実施計画(その3)の認可申請を行った際、7.04兆円(リリース)へ変更を行っている。そこからさらに工事費の見通しを再試算したというのである。その価額、実に11.0兆円である。
過去のリリース類はこちらがよくまとまっています。
全国新幹線鉄道整備法の手続き(JR東海HP)
そのうえで、今後投資家として気になるのは経営が安定してなされるかどうかである。仮に開業時期を2035年とすれば、資金調達を2.4兆円行えば、健全経営・安定配当ができるとしている。ここで仮に2035年開業と言っているのは、先の「工事実施計画(その3)」で、2027(令和9)年開業を「令和9年以降開業」と置き換えて以来に、開業時期の見通しを示したものではない。すなわち「静岡工区のトンネル掘削工事に未だ着手の見込みが立たないため、現時点で見通すことができない状況」である。
前提条件としては、運輸収入を1.49兆円(万博の収入増の影響を受けた2025年は1.53兆円:決算短信)、資金調達は金利3%(※2024年発行の普通社債は1.994%:JR東海HP)を想定している。また、リニア中央新幹線の料金は試算上、2010年の交通政策審議会に合わせ「のぞみ+700円」:を仮定している。
結果としては、名古屋開業直後(仮置きのうえでは2036年度)の収益は1.64兆円、経常利益は650億円となっている。2033年度までは6000億円程度の経常利益を確保しているとの試算でもあるので、かなりチャレンジングな経営になるということである。もっとも、これ自体は2010年時点でも同様の収支のカーブを描く見込みであったので、そこまで心配していないのであろうと思われる。
一方で、リリースの中で、「今後インフレの影響を強く受ける場合には、鉄道の運賃・料金への価格転嫁が必要になると考えています。そのような観点から、インフレによるコスト増を柔軟・簡便に運賃等に反映できるような仕組みづくりに向けて関係箇所へ働きかけています。」としている。JR東海の運賃・料金に対する考えは、2022年時点ではあるものの、交通政策審議会上交通分科会鉄道部会鉄道運賃・料金制度のあり方に関する小委員会で明らかにされている。運賃・新幹線特急料金の改定が非常にハードルが高いことは本ブログでも繰り返し述べているところであるが、ここまでインフレが続くとプライスキャップ制などを望んでいるのであろうと思われる。
なお、工費の増加の理由は、
・物価高対策が2.3兆円。うち、すでに上がっている物価が1.3兆円、今後の上昇リスクが1.0兆円である。
・難工事への対応(想定より脆い地山、名古屋、品川)が1.2兆円
・仕様の深度化(地震対策等)が0.4兆円
となっている。




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