鉄オタが読みたくなる法律本を考えてみる

2024年4月26日未分類

なんか少しだけ話題にしていただいたものを深堀したい。
ここでいう「鉄オタが読める法律」ていうのは
A:鉄オタにとっては有名な話から出発して法律の話をする
B:法律の解釈にとって重要な事件で鉄道が絡んでくるものを取り上げる
C:鉄道関係の諸法令(鉄道事業法を中心に)を開設する
というあたりが考えられるが、ここでいうのはどっちかといえばBの話をしたいと思っている。

いろんな方から挙げられた事件を少しだけここで触れたい。とはいえまだまだ学生の身。かなり大雑把になることはお許し願いたい。

(あと個人的に「クリエーター・YouTuber・VTuberのための確定申告マニュアル」みたいなの作りたいとも思ってます)

①宇奈月温泉事件
 宇奈月温泉を営業していたY社が源泉から温泉街まで木管を引いていて、その一部の土地を買収できていなかったところ、Xがそのごく一部を購入して法外な要求を突き付けた。確かに所有権に基づいてこういう請求はできるが、Xの要求は権利行使の範囲を超えた「権利の濫用」だ、とされたもの。
 権利濫用という枠組みを大審院が最初に示した判決として有名だが、ここで訴えられたY社こそ現在の富山地方鉄道である。
cf.民法1条2項 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
同3項 権利の濫用は、これを許さない。(いずれも現行の条文)

②JR東海事件
 これはかなり最近の事件で、東海道線共和駅ホームから線路内に立ち入った認知症の方の妻と長男にJR東海が損害賠償請求をしたものである。JR東海が被った損害というのはつまり列車の遅延による人件費や振替乗車などの費用というのはわかりやすい。
 ここで問題になるのが認知症の方(衝突により死亡)に賠償を求められるのであれば、それを相続するという話なのでそこまで話は複雑にはならない。しかし、この方に責任能力がないと判断されたというわけで、妻と長男に監督責任が直接あったか、ということが問題となった(最高裁の判断は結論として監督責任がないとしてJR東海が敗訴)。
cf.民法714条1項 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。


③パブリックフォーラム論
 JR吉祥寺駅前でビラを無許可で配り演説をしていた人が刑法の不退去罪(など)に問われたもの。これに対してこの行為に鉄道営業法などを適用することが憲法21条の表現の自由を侵害すると主張した事件である(最終的には有罪が確定)。
 ここで最高裁の伊藤裁判官が「一般公衆が自由に出入りすることのできる場所においてビラ配布することによつて自己の主張や意見を他人に伝達することは、表現の自由の行使のための手段の一つとして決して軽視することのできない意味をもつている。」ことを出発点にそのようなパブリックフォーラム
と呼ぶことができる場所での表現行為は一定の配慮が必要だとした議論が繰り広げられている。
cf.刑法130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
憲法21条1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

④鉄道運賃の値上げと利用者の関係(近鉄特急料金訴訟・北総鉄道運賃訴訟)
 鉄道運賃の認可を(高すぎて)不当なものとして利用者が訴えることについて「原告適格がない」、つまり訴える資格を有しないとして却下した両裁判である。
 鉄道運賃の認可は行政処分である。これはあくまで国ー鉄道事業者の関係でなされるものだから例えば認可申請を拒否された場合に鉄道事業者が取消訴訟をできるというのは、鉄道事業が行政処分の相手方であるので原告適格があるとされる。ただ、利用者が行政処分の取消しを求める「法律上の利益」を有するかどうかは見解が分かれるところえある。近鉄特急料金訴訟のときに比べて原告適格の認める範囲は拡がっているというのが近時の傾向といえる。実際北総のほうについては日常利用している分には認められる余地があったとしている。
cf.行政事件訴訟法9条1項 処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。
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▲画像が1枚もないのは寂しいので近鉄特急の画像を。

⑤小田急高架化事件
 小田急の喜多見駅から梅ヶ丘駅の区間を高架による連続立体交差にする都市計画の認可を取り消すことができるかというもの。地域住民からすると地下による立体交差にしてくれたほうが騒音などの問題が軽減されるということから来ている。
 この時都市計画法の認可基準からして、住民には原告適格、つまり「訴えの利益」があるとの判断が示されたため、この認可が違法なものかどうかの判断がなされた。結局は裁量権の濫用がないという結論になっている。

そのほかリプライなどでいただいたものは
・国鉄のスト権スト(労働法・憲法関係)
・札幌駅事件(労働法)
・信玄公旗掛松事件(黒部宇奈月温泉事件の一種の先例)
・新幹線運賃差額返還訴訟(行政法関係)
などがある。勉強します…