旅客営業規則のHP公表は必須なのか?【名鉄】
せっかくなので旅客営業規則の話をしたい。もっとも話すのは旅客営業規則の中身ではなく、旅客営業規則がどういう形で示されるべきかという話である。できる限り法律をかみ砕いて説明しているので安心してほしい。
名古屋鉄道の運賃改定のパブリックコメント(リンク)でこういうものがあった。
2020 年に鉄道営業法が改正されて以降、JR 各社や大手民鉄各社は運送約款を自社のホームページ上で公開しているという現状があります。大手民鉄企業の中でも、運送約款を公開していないのはごくわずかな数社ですが、その中には名古屋鉄道も含まれます。現在、運送約款にアクセスするためには有人駅での閲覧が必要ですが、時には閲覧を拒否されることもあります。
今回の運賃の値上げに合わせてホームページ上で旅客営業規則をはじめとした運送約款を公開するよう、お願いいたします。
ここに関連する2020年の鉄道営業法改正というのは、こういう条文を追加しているものである。
第十八条ノ二 鉄道ニ依ル旅客ノ運送ニ係ル取引ニ関スル民法(明治二十九年法律第八十九号)第五百四十八条の二第一項ノ規定ノ適用ニ付テハ同項第二号中「表示していた」トアルハ「表示し、又は公表していた」トス
じゃあ民法では何を言ってるんだということで、民法548条の2を見てみよう。この条文も2020年4月1日に改正により追加されている。
(定型約款の合意)
第五百四十八条の二 定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(…)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
一 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
二 定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 略
その中には非常に細かいルールも定められており、乗客としてはそこまで細かいことまで毎回逐一確認しているわけではないけども、個別の内容についても合意していることとして取り扱われるわけである。ただ、乗客が思わぬ不利益を被らないようにするために、個別のルールの合意があるとされるためには定型約款を準備した側が契約前に事前に約款が適用されることを乗客に表示又は、そのことを公表(ここが読み替えによるもの)しなければならないことになる。
つまりいちいち改札に「この改札を通ると旅客営業規則が適用されます」などと書かなくていいわけである(通販サイトの同意ボタンみたいなことをしなくていいわけである)。確かに名鉄のHPを見れば「当社のご利用にあたっては、名古屋鉄道株式会社の「旅客営業規則」等の運送約款が適用されます。」と記載があるので、そのあたりは問題がないと思われる。
(定型約款の内容の表示)
第五百四十八条の三 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
2 定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだときは、前条の規定は、適用しない。ただし、一時的な通信障害が発生した場合その他正当な事由がある場合は、この限りでない。
名鉄の場合、有人駅での閲覧拒否は「定型約款準備者が定型取引合意の前において前項の請求を拒んだとき」に当たるものと思われる(むしろ各社がHPで公表している理由はわざわざ有人駅で閲覧を求めてくる客を対処しなくてよいようにするためと思われる。)。
更に変更の場面では、
(定型約款の変更)第五百四十八条の四 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。3 第一項第二号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。4 第五百四十八条の二第二項の規定は、第一項の規定による定型約款の変更については、適用しない。
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