東海道新幹線 高速化の歴史と展望

2024年4月26日未分類

世界最初の高速鉄道たる東海道新幹線は、実は当時の最新技術を詰め込んだというわけではなかった。
むしろ持ち合わせる技術を精緻化することで210km/h運転を実現させたといえる。
そして現在に至るまで洗練された技術を取り込み続けた新幹線は、東京新大阪間の最速達列車は2時間22分で走破し、1時間当たりの営業列車が最大16本となるまさに日本の大動脈となっている。

↑新大阪駅の時刻案内。本数の多さは推して知るべし。

ところで最高速度の引き上げは結構最近であったことはご存知だろうか。
初代新幹線車両である0系は上述のとおり210km/h。
その次の100系新幹線(と国鉄末期の0系)は220km/h。
JRに代わってから「のぞみ」が生まれた300系で270km/hになる。
そして東海道新幹線の中で異質のフォルムを持った500系は(山陽新幹線区間で)300km/h運転を実現したが、座席の割付が他の車両と異なることから早くに東海道新幹線からは撤退している。
700系新幹線は乗り心地や快適性を維持しつつより多くの区間で270km/h運転を可能にした。
N700系、N700A系も285km/h運転が可能であり、2015年から現行の最高速度・285km/hとなっている。
そして2020年に営業運転を開始したN700Sも285km/h運転を実施している。

ところで、東海道新幹線について更なるスピードアップが噂され、一部の鉄道ファンがこのことをほぼ確定的なものとして信じてやまないのである。
恐らくその最初の出所は『日経新聞』の2009年12月8日朝刊である。その記事を見れば早朝深夜など待機列車がない時間帯にN700系を用いて京都~米原間で330km/hを出して所要時間を「1分程度」短縮するものとしている。試験走行でなく営業列車でこれを行う意義としては海外での受注競争を勝ち抜くための戦略としてこれがあげられていた。
なお、これは当時のあくまで「検討」であり、早くとも2011年後半に実現を目指すとするものであった。

では現状東海道新幹線が330km/h運転を実施する蓋然性があるかを検討してみたい。
まずよく言われるのが「リニア開業を控えた中、並行する新幹線のスピードアップはあり得ない」とするものであるが、全国新幹線鉄道整備法に基づいて中央新幹線の建設が正式決定したのは2011年である。そこからでもスピードアップないし、車両更新等々をなしていることからしてこれだけが決め手となるわけではない。

次に車両の性能としてあり得るか否かはどうか。これは実現可能といえる。2019年6月6日にN700Sで京都ー米原間で360km/hでの試運転を実施している。しかしこれを報じる記事タイトルにもあるように、東海道新幹線内での高速運転を図るという目的ではない。状況に応じて様々な場所で対応する高速鉄道車両としての売り込みとしての目的が強い(参考: 実現しない360km/h運転、なぜ東海道新幹線で試験したのか スピードアップ予定無し(乗り物ニュース,2019年6月7日))。
そしてこれはN700Sの設計思想と合致する。それはJR東海が公式に認めるところであり、床下機器配置を見直して16両のみならず6~8,12両での編成も用意に可能としている(参考: 「標準車両」の実現(JR東海))。

ではJR東海の近年のダイヤ改正の傾向はどうか。ざっと概観する(極力速度引き上げ関係と「のぞみ」関係に絞った)。
2012年:300系引退、定期のぞみのN700化、臨時のぞみの追加設定(一部時間帯での10本ダイヤ)
2013年:N700Aの新規投入
2014年:通時「のぞみ10本ダイヤ」化、「ひかり」にN700を追加投入
2015年:新幹線の最高速度引き上げ(285km/h化・早朝深夜と日中定期毎時1往復,再速達2:22化)
2016年:「のぞみ」「こだま」計13本で最高速度引き上げ(日中2:30運転実現)
2017年:定期のぞみ、ひかりをN700A化
2018年:「のぞみ」速達化
2019年:「のぞみ」毎時1本を2:27化
2020年:全列車をN700系・285km/hに統一、「のぞみ12本ダイヤ」実現、全「のぞみ」を2:30以内に運転
2021年:半数の「のぞみ」を2:27化
2022年:「のぞみ」30本を2:24化
2023年:「のぞみ」17本を2:27化、2本を2:24化、定期列車の時刻変更

一部列車の最高速度引き上げから、全列車の最高速度引き上げまでの間に5年を掛けている。その間のダイヤの苦心の跡はニュースリリースを直接当たっていただきたいところだが、いくら、2023年春改正時点で概ね1時間に1~2本ののぞみ号がN700S固定運用になり、しかもこれからその本数が増え(また固定運用が増え…)るとしてもN700Sだけ最高速度の引き上げを行う蓋然性があるとは言えない。

なぜならを最高速度の引き上げを(290km/hであれ、300km/hであれ)行うのであれば運用が固定された時点から行えば済むという話であるからだ。上で見た通り、270km/hから285km/hへの引き上げ時は昼間概ね毎時1本から実施している。
そのうえで、最終的にはN700Sに全列車が置き換わったタイミング…などと思索を巡らしたのだが、2026年度までに新幹線車両の4割を置き換えるとしているのみである(参考:東海道新幹線 N700Sの追加投入について(JR東海))。

となれば東海道新幹線の330km/h運転の実現可能性がそこまであるとは言えない。と結論付けてよいだろう。