ICカードのエリア”跨ぎ”拡大・新幹線利用を見る
ICカードは都市圏の大量改札を迅速かつ効率的に行うことには向いているが、そのための仕組みが重たいがゆえに、制約も大きかった。特にエリア跨ぎといわれる利用方法はたいていの場合に不可能であった。今回はJRのICカードのエリア跨ぎについて、新幹線利用とともに概観していく。
今までは、各社のICカードサービスのエリアは隣接しないようにしていた。
例えば、2019年春のTOICAエリア拡大では、東海道線は米原の隣、醒ヶ井まで、御殿場線は国府津の手前、下曽我まで、関西線は亀山まで使えるようになったが、JR西日本は依然利用不可であった(「TOICA」のご利用エリアを拡大します!(JR東海))。
他方で、JR西日本は2015年頃から自社内のエリア拡大を進め、2018年夏には近畿・岡山・広島・山陰・四国・北陸エリアをつなぐようにICOCAを拡大させた(ICOCAのご利用エリアが大きく広がります!)。他方で長距離の利用については、同エリア拡大までは岡山・広島・山陰・四国エリアは隣の地区まで利用可、そのほかはエリアを跨がない範囲で利用可としていた。それをエリア統合に先んじて200km以内の利用(+特急停車駅相互・大阪近郊区間内など)に限定することとした。いくら金沢から南岩国(当時)まで使えるからといって、改札の対応できる限度というものがあったといえる。(そのため、近郊区間外でも最短距離で計算されるICカードでは事実上大回りできるが、紙のきっぷでは大回りできない、などという差異が生まれることになっている。)
JR東日本も徐々にICカードエリアを拡大させているが、首都圏エリアと仙台エリアをくっつけない対応を取っている(これは現在もそうである。例えば東北線:黒磯ー矢吹や、常磐線小高ー浪江など)。これは東京・仙台・新潟に近郊区間(大回りしても最短経路で計算)を設定し、紙の切符もICカードも運賃計算を統一するための措置である。それでもJR他社との境界では利用できないままであった。
風向きが変わったのは、2019年9月20日3社共同ニュースリリース。2021年春に向けて以下のようなサービス向上を図るとした(在来線および新幹線におけるIC定期券のサービス向上について(2019年9月20日))。
・2021年3月13日ダイヤ改正
①「エリア跨ぎ定期券」の発売
例えば、草津ー米原ー大垣の定期券をICカードで作ることが出来るようになった。発売は各ICカード発売会社になる。ただし、単純なICカードはエリア跨ぎはいまだにできないし、ICカード定期券でも、エリアを跨いだうえで乗り越し精算を改札機ですることはできない(上の定期券であれば関ヶ原ー岐阜は大垣ー岐阜分の精算は改札機でなされるが、草津ー岐阜は岐阜駅の改札機で弾かれることになる)。
なお、3社跨ぎの定期券は発売されていない(これは磁気でも同様)。また、モバイルSuicaでは発売されていない。
②「FREX」「FREXパル」のICカードで発売
つまり新幹線定期券である。在来線と新幹線を通じた定期券としても発売される。ニュースリリースの例示としては新神戸ー名古屋、沼津ー御茶ノ水となっている。
③「新幹線乗車サービス」の拡大
もともとはTOICAエリアのみのサービスで、例えば名古屋ー豊橋のTOICA定期券を有している人が、新幹線自由席に乗車すれば降車駅で自動的に特急料金が残高から引き落とされるというものである。これが一挙に東京ー新岩国に拡大された。
これらは2021年3月13日ダイヤ改正に合わせて実施となった(上記と同旨リリース(2021年1月19日))。
こののちに、2022年春にはICOCAエリアが南岩国ー徳山まで延伸するにあたり、新幹線乗車サービスが徳山まで拡大(FREXの発売については据え置き)され、2023年4月1日には徳山ー下関にもICOCAエリアが拡大されたことにより、「FREX」の発売、「新幹線乗車サービス」も博多まで拡大されることになった(在来線(山口エリア)および山陽新幹線でのICカードサービス拡大 )。
ところで、JR九州もICカードを持っている。SUGOCAである。2011年にSUGOCAエリアが門司ー下関間に拡大されていたため、JR九州とJR西日本のエリア跨ぎIC定期券も発売されるようになった。ただし、SUGOCAエリアでは新幹線利用不可となっている(HPにも”新幹線区間を「SUGOCA定期券」「SUGOCA特急定期券」で利用の場合は、あらかじめ全乗車区間の乗車券及び新幹線特急券をお買い求めください。”と記載がある(引用元:SUGOCAの種類))ためか、九州新幹線区間でのICカードサービスはまだまだ拡大していない(もし使えるようになれば新八代まで使えるようになるだろう)。また、ニュースリリースを見る限りSUGOCAでの下関跨ぎのIC定期券は発売がなさそうである。
ここまでの話で見過ごされてきたものがある。つまり北側に伸びる東北・北陸・上越・山形・秋田新幹線である。こちらは「タッチでGo!新幹線」というサービスがある。このサービスは定期券とは限っていないことに特徴がある。初回登録が必要にはなるが、全国共通ICカードで利用可能である。生産方法としては新幹線区間前後を在来線で乗車する場合は打ち切り合算をすることとしている。
料金としては自由席相当額となる。また、山形新幹線・秋田新幹線は福島ー新庄間・盛岡ー秋田間の新幹線停車駅相互のみ(在来線・東北新幹線跨ぎも不可)という取扱いをしている。更に、盛岡以北と秋田新幹線、山形新幹線は全車指定席であるために、空席利用となる。
なお、JR西日本・JR北海道区間(上越妙高ー金沢・新青森ー新函館北斗)についてはこれらに対応していない。
最後に今後のICカードエリア拡大において確認しておくべきことは、JR東日本が推進しているセンターサーバー式の改札機である(新しい Suica 改札システムの導入開始について )。現在の各社改札機は、改札機内で計算を行う仕組みであるために、適用エリアを限らざるを得ず、更に運賃改定時の改修にも手間がかかっていたという。現在の改札機の使用感はそのままに、柔軟な設定が可能となっていく。QRコードとの共存が図られていくものとも思われる。ただ、大きな変化があるとしても数年先であろうと思われる。ただし、各社バラバラの開発・仕組みになりかねないことには留意が必要で、接続が困難なシステムが乱立した場合には、エリア跨ぎなどの利便性向上とは逆の結果になるといえる。
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