JR東海、本気を出す 【社長会見】

2024年4月26日JR各社/三セク国鉄

JR東海は社長会見で、経営体力の再強化を図るとともに先進技術を用いた鉄道の将来ビジョンを示した。内容を言えば「他社を追随した勢いでそのまま起き去る」というのが正しいだろう。

最新の技術を活用した経営体力の再強化 ~より安全で、より便利で、より快適な鉄道を目指して~

まずはこの先10~15年、つまり中央リニア新幹線開業頃までに固定費を800億円さくげんするとともに収益の拡大を図っていくものである。

安全、便利、快適の字句が並ぶ。順にみていく。なおあくまで具体的な内容が決まっているわけではないので今後変更がなされうるものといえる。

まずは安全について。新幹線では全ての駅にホームドアを設置する。日本初のホームドア設置駅である熱海のほか東京、品川、新横浜、名古屋、京都、新大阪には設置があるが、そのほかは固定柵しかなかったり、そもそも設置がないところが多い。
運転に関しても半自動運転(手動発車、運行中と停車は自動化)を実施し、運転士がホーム開閉を行うこととなっていく。車掌は旅のサポートに注力する流れである。現在(2016年以降)は車掌・パーサーを合わせのぞみ・ひかりが4人、こだまは3人(東京~名古屋の列車)/2人(その他)となっている(車掌は全列車2名ほかはパーサー)。これを減らすという趣旨には見えない。
在来線ではJR他社が実施しているように列車側部にカメラをつけてワンマン運転区間を拡大していく。現在JR東海ではワンマン運転は2両編成まででしか実施していない。3両以上でのワンマン運転実施となれば例えば関西本線の種々の列車や東海道線の普通電車などは順次ワンマン運転に変わっていくだろう。他方で飯田線の山間区間は保安上の理由からツーマンのままであろう。
保線や車両点検にあたってはデータを用いた技術を活用していく。目視や人手によるものを画像認識に置き換えるなどがその内容である。

利便性については結構衝撃的である。ICカードの利用エリアであるが、「全線に拡大します」とある。検討します。ではない、「拡大します」である。もう言い切っている。むろん他社に比べて路線が環状になる部分が少なく導入時の経路問題が生じににくいというメリットはあるとはいえ言い切ってしまったのは驚きである。
未導入の線区は以下の通り。身延線:西富士宮~甲府、飯田線:豊川~岡谷、中央西線:中津川~塩尻、高山本線:美濃太田~猪谷、東海道線:大垣~美濃赤坂、紀勢本線:亀山~新宮、参宮線:多気~鳥羽、名松線:松阪~伊勢奥津(、及び三セク線の伊勢鉄道と天竜浜名湖鉄道)。
さらにネット予約の拡大も行われる。特急券をネットで買えるようになる。しかも「乗車券はICで」のところにTOICAカードだけでなくスマホもあることから、もしかしたらモバイルTOICAの導入もあり得るのかもしれない(そうなるとスマホで予約から改札までできる)。もっとも、JR東海の特急列車は多車線を経由するものの割合も多いのでそこの詰めはこれからだろう。
現状JR東海のHPを見れば新幹線はビジネス利用を想定したEX予約と東海道・山陽・九州新幹線にICカードで乗れるといううたい文句のスマートEXがネット予約となっているが、在来線はJR西のe5489とJR東日本のえきねっとを案内しているのみである。

いわゆるみどりの窓口(「JR全線きっぷうりば」)もテコ入れの対象で、いわゆるアシストマルス(みどりの券売機プラス相当)の拡充を図り、また東海道線三河地区や関西本線で実施中の「集中旅客サービスシステム」を拡充するとしている。そしてこれはあくまで「早朝・深夜でもきっぷが購入可能となる駅を拡大」し、「駅係員の配置は、ご利用実態にあわせて適正な形」つまり「対面でのご案内が必要な業務等に注力」するとしている。あまり極端な合理化を恐れて論じる必要はないだろう。

まだある。23年秋導入目安としてEX-MaaSの準備を進めている。これは新幹線と旅行プランを一体予約できるもので、さらに乗車直前まで列車変更が可能な旅行商品を提供するとしている。他社が例えばwesterなどでやっているようなことを一挙に進めるという具合である。

快適性についてはやはり新幹線についてがメインである。東海道新幹線にグリーン車の上級クラスを導入することや、ビジネス環境を一層高めた座席(S work車両やビジネスブースの進化版か)を導入検討している。まだこれは検討段階と言うことでいいだろう。新幹線の貸し切りやオリジナル車内装飾なども検討対象内である。これらをリニア新幹線新幹線の全線開通より前にやるというのだから驚きである。

JR各社がやっていることを全部取り入れてしかもその先に突き進みますというビジョンを小出しにするのではなく全部出してしまった。今回示されているのは中期経営計画よりもまだ先のものであるからどれほどの予算を講じるのかもわからないし、年間800億円のコストカットを実現していくというので、またそれも今後の懸案になるだろう。要は過度な合理化がなされないかも要注意はするべきだろう。なんというか、トヨタがEV車を一挙発表したような感覚に襲われている。