加算運賃いつなくなるの? 2024年再計算Ver
加算運賃は、「主として新規路線の開業等に伴い発生する多額の資本費コストを回収するために、加算区間において基本運賃に加算して設定されるものである。」というのが国交省の定義である。
その特徴としては、加算運賃はその資本費コスト回収率が100%になるまでしか設定できない上に、減額・廃止した場合は、増額・復活させることが出来ないという特徴がある。じゃあ回収がどれほど進んでいるか、いつ頃なくなるのかというのは気になるところなのでこれを計算しようというものである。
計算方法
1.加算運賃は「A:新線の設備投資額」と「B:毎年かかる使用料・支払利子」を「C:加算運賃収入」と「D:基本運賃収入からの回収額」でまかないきるまで設定できる。Dについては鉄道事業が黒字なら加算運賃設定区間が利益に貢献している割合で回収額に含めるべきだ、という考え方による。
2.毎年掛かる額はB、毎年の収入はC+Dである。令和5年度について、
(1)B<C+Dであるときに限り「回収のめどあり」とする。回収にかかる年数は「令和5年時点での(A+B)-(C+D)の累計額」を「令和5年の(C+D)-Bの額」で除した値(小数点以下切り上げ)である。
(2)令和5年のコスト・回収額がB>C+Dの場合は(ひとまず)「回収のめどなし」と考える。
結果
それで計算した結果がこうである。残高と回収は令和5年時点で回収すべき残高と令和5年で回収された額(単位は百万円)である。JR西日本が中々出さないので先に公開する次第である。
社名 | 線名 | 残高 | 回収 | 年数 |
---|---|---|---|---|
京急 | 空港 | 13913 | 1110 | 13 |
東急 | 新横浜 | 17367 | 1111 | 16 |
名鉄 | 豊田 | 9259 | 474 | 20 |
阪神 | なんば | 12566 | 508 | 25 |
京成 | 本線 | 9985 | 383 | 27 |
JR九 | 宮崎空港 | 1449 | 45 | 33 |
JR四 | 本四備讃 | 21439 | 285 | 76 |
近鉄 | 鳥羽 | 6100 | 61 | 100 |
京阪 | 鴨東 | 44406 | 409 | 109 |
近鉄 | けいは① | 139766 | 1155 | 122 |
南海 | 空港 | 81332 | 479 | 170 |
泉北 | 泉北 | 21226 | 15 | 1416 |
名鉄 | 知多新 | 16315 | 8 | 2040 |
京成 | 東成田 | 67843 | 26 | 2610 |
近鉄 | けいは② | 72955 | -1522 | なし |
JR北 | 千歳 | 3297 | -46 | なし |
京阪 | 中之島 | 19675 | -1132 | なし |
相鉄 | いずみ野 | 104858 | -231 | なし |
相鉄 | 新横浜 | 18962 | -242 | なし |
名鉄 | 空港 | 41103 | -695 | なし |
名鉄 | 羽島 | 5629 | -18 | なし |
JR西 | 関西空港 | 0 | 0 | |
北急 | 南北線 | 0 | 0 |
ここ最近の加算運賃に関連し得る動きを以下に示す
【加算運賃関係】
2019年10月:京急 加算運賃縮減(170円→50円)(リリース)
2019年10月:JR北海道 加算運賃縮減(140→20円)・運賃改定(リリース)
2019年11月:相鉄 JR直通線開業・加算運賃設定(リリース)
2023年10月:京王 加算運賃廃止(リリース)
2023年03月:相鉄・東急 新横浜線延伸・加算運賃設定(リリース)
2024年03月:北急 南北線延伸・加算運賃設定(リリース)
2025年01月:Osaka Metro 中央線延伸・加算運賃設定(リリース)
【バリアフリー加算・変動運賃関係】
2023年03月:バリアフリー加算(相鉄・京成)
2023年04月:バリアフリー加算(京阪・阪神・JR西)
2025年04月:JR西日本 関西空港線含め電特拡大・バリアフリー加算(HP)
【運賃改定関係】
2023年03月:東急 運賃改定(リリース)
2023年04月:近鉄 運賃改定(リリース)
2023年05月:JR四国 運賃改定(リリース)
2023年10月:京急 運賃改定(リリース)・南海 運賃改定(リリース)・泉北 運賃改定(リリース)
2024年03月:名鉄 運賃改定(リリース)
2025年04月:JR北海道 運賃改定(リリース)
2025年04月:JR九州 運賃改定(リリース)
2025年04月:南海・泉北 合併に伴う運賃改定(??)
分析
回収が見込まれる線区
京急空港線:2019年に170円から50円に改定しているがそれでもなお順調に回収が進んでいる。この後13年間と見込まれるが、その間に羽田空港アクセス線の開業が見込まれる。これに合わせて戦略的な値下げを更に行うことも充分考えられよう。
名鉄豊田線:梅坪~赤池間に設定されている。2019年度ベースでの利用・収支となれば、もう少し早く回収が進む可能性も考えられる。
なお、参考までに記載すると、2006年12月に瀬戸線の加算運賃廃止・manaca導入に合わせて加算運賃を引き下げている(リリース)。
阪神なんば線:関西でも屈指の高額な加算運賃を設定している路線で、現在順調に回収が進んでいる。なんば線は西大阪高速鉄道から借り受けて営業している路線であり、2023年度末までに226億円を支払い済、残り375億円をしはらう必要があることとなっている。これを踏まえて今年度と同じペースで回収する前提で計算すると、やはり25年ほどかかる計算になる(利息で若干膨れる可能性がある)。そのため、加算運賃の引き下げはあまり期待できないとみてよい。
京成本線:京成成田ー成田空港間に140円で設定している同線区だが、今のところ動きは見られない。成田スカイアクセス線開業後回収が鈍化しているようではある。
JR九州宮崎空港線:現在130円で設定しており、30年ほどで回収できる。こちらも、何らか変動する要因を持っているとは言いづらい。
留意が必要な線区
東急新横浜線:いかにも順調そうに見えるが、これはJRTTへの支払が最初の5年は抑えめで設定されていることによる。JRTTにより整備された相鉄・東急新横浜線は両社がJRTTに線路使用料を支払っている。線路使用料は各社の受益額(=収入変化と経費変化の差額)で決まるが、加算運賃を設定しないとJRTTの累積収支が基準を満たさない(30年程度で累積資金が好転しない)ので、加算運賃が設定されている。東急の場合、2026年度以降は2479百万円を使用料としているが、当初の定着率を踏まえて事実上初年度となる2023年は460百万円に抑えられている(鉄道局)。線路使用料を上回り続ける形で利用が見込まれれば加算運賃の引き下げもあり得るが、16年での廃止とならないことは確かである。
相鉄新横浜線:上記がダブっている例である。一応その使用料を示しておこう(JR直通時点の資料:鉄道局)。
西谷ー羽沢 | 羽沢ー新横浜 | |
---|---|---|
2019年度 | 474百万円 | |
2020年度 | 948百万円 | |
2021年度 | 1231百万円 | |
2022年度 | 1515百万円 | 31百万円 |
2023年度 | 1515百万円 | 364百万円 |
2024年度 | 1515百万円 | 739百万円 |
2025年度 | 1515百万円 | 1114百万円 |
2026年度 | 1515百万円 | 1677百万円 |
以降 | 1515百万円 | 1677百万円 |
※西谷ー羽沢横浜国大間:1年目の定着率80%、2年目90%、3年目100%
※羽沢横浜国大ー新横浜間:1年目の定着率65%、2年目75%、3年目85%、4年目100%(東急も同じ)
JR四国 本四備讃線:Bに当たるところが本四使用料で、道路との共用部の維持管理等に係る費用の当社負担額となっている。なお、鉄道関連部分の更新費用は2020年12月からJRTTが負担することとなっている(国交省資料)。Bの額が2020年度まで6.5億円程度であったところ、2.3億円程度まで下がっている。結局これで回収が進むという結果になっているわけである。
回収が困難である線区
近鉄鳥羽線・京阪鴨東線・けいはんな線(生駒まで)・南海空港線・泉北高速線・名鉄知多新線・京成東成田線:回収すべき額が一応減っている路線ではあるも、100年以上かかると見込まれている。例えばけいはんな線(長田ー生駒間)は回収額(C+D-B)だけを見れば京急空港線に匹敵するが、残高に当たる額が10倍程度となっている。泉北高速鉄道は南海と合併するが、これが及ぼす影響は考えなくてよさそうである。
JR北海道千歳線:加算運賃を140円から20円に引き下げて以降、施設使用料(B:2.2億円)を加算運賃収入が超えたことはない。恐らくこのまま加算運賃を維持して2億円弱の貴重な収入源としようとしているのだろう。
近鉄けいはんな線・京阪中之島線・相鉄いずみ野線・名鉄空港線・名鉄羽島線:線路使用料等(B)が、回収額(C+D)を上回り続けている路線である。
JR西 関西空港線:はやく公開してください。
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