不思議な鉄道「神戸高速線」概史
関西の鉄道で不思議な事業者が居る。神戸高速鉄道株式会社である。
同社線は西代~阪急神戸三宮・元町の東西線と新開地~湊川の南北線に分かれる第三種鉄道事業者である。
第三種鉄道事業者とは設備だけをもって線路を第二種鉄道事業者(ここでは阪急・阪神・神鉄)に貸し付ける会社である。JR東西線・なにわ筋線を保有する関西高速鉄道や成田空港高速鉄道など26社(自治体も含む)があり、それだけでは珍しくもない。最近ケースが増えた上下分離もこの形式を利用している。
しかし、他の第三種鉄道事業者と大きく異なるのは、神戸高速鉄道の区間が別建て運賃になっていることである。このようになった経緯を見ていきたい。
時は高度経済成長期、神戸に乗り入れる鉄道は国鉄山陽本線と神戸市電のほか、阪神電車が元町まで、阪急が三宮まで、山陽が兵庫まで、神鉄が湊川までとなっていた。
山陽電車の併用軌道区間を廃止し、これらの4社の鉄道が神戸市中心部に地下で乗り入れる第三セクター会社として建設されたのが神戸高速鉄道である。これにより阪急・阪神・山陽の3社は直通運転を開始。その際に神戸高速鉄道は駅・線路の設備は自社持ちである一方で、自前の車両を持たず、全て各社に乗り入れてもらう形での開業となった。
そのため、収入は自社線の運賃収入、支出は車両使用料と共同駅の使用料となった。
ではそもそもなぜ現在一般的な上下分離のように電鉄各社に線路を貸し付ける形にならなかったか。それは当時は現在の(国鉄民営化以前の)鉄道事業法ではなく、地方鉄道法が適用されていたからである。同法は旅客運送をしない鉄道会社は存在しえない建付けの法律となっていたために、このような形式をとらないといけないし、運賃も独立運賃にならざるを得なかった。
さて、時は移って国鉄民営化と相成り、地方鉄道法と日本国有鉄道法が廃止され鉄道事業法が施行されることとなった。その際に各種鉄道事業者が定義され、
「第一種」は自らが敷設する線路で旅客の運送を行う事業者、「第二種」は自らが敷設する線路以外で運送を行う事業者、「第三種」は線路を第二種鉄道事業者に専ら使用させる事業者となる。
神戸高速鉄道としては自社で施設を保守管理・運行管理・駅業務を行い続けることができる「第一種」を希望したものの、運輸省は同社が設備を持っているものの、車両・乗務員を借り受けているだけなので「第三種」に当たるとした。
神戸高速鉄道が車両を持つとか、第三種鉄道事業者になるかの調整がつかなかった形跡は、ひとまず経過規程で一年間今まで通りの管理ができる措置が法律に書き加えられている(参考: 成立当時の鉄道事業法(衆議院HP) 鉄道事業法附則第三条第十項の規定に基づく事業者(国土交通省HP))。
結果的に実質今まで通りの管理ができるように行えるよう調整がされたために「第三種鉄道事業者」として許可が下りている。
車両は神戸高速の借り入れという形式をとる必要がなくなった一方、本来「第二種」である4社が行うべき運行管理・駅業務は4社から神戸高速に委託され、今まで神戸高速が得ていた運賃収入相当額の委託料を神戸高速が得る形となった。
そのため神戸高速線の運賃は今まで通り別建てとなっているが、それは「神戸高速の運賃」ではなく、「電鉄各社が別建てとして設定している運賃」という意味合いになっている(そしてその体系は今も残っている)。例えば阪急の旅客営業規則を見ると「神戸高速線は別に定める」としてある。(参考リンク)
さらに30年ほど経つ間に、阪神淡路大震災や神戸市営地下鉄の開業などの要因もあって経営悪化がり、2010年10月には運行管理・駅業務の受託を終了。電鉄各社も事業許可の範囲を整理(山陽が西代~阪急三宮・元町の東西線全線、阪急が新開地~西代を廃止。以降は阪神が元町~西代、阪急が三宮~新開地の許可を維持。参考:神戸高速線における鉄道事業許可変更日の決定について(阪神ニュースリリース))。駅員の制服も阪神のそれに変わり(阪急区間は阪神が受託。参考: 新体制による運営開始にあわせて、お得な乗車券を発売し、制服・駅名看板をリニューアルします。 (阪神ニュースリリース))、今では神戸高速は一般的な第三種鉄道事業者と同じ経営形態になっている。
(一番最初の写真の「神戸高速鉄道株式会社」の上に「神戸高速線」のテプラが貼られたのは恐らくこの時期だろう)
それでも運賃は別建て(電鉄各社の本線よりは安く、また乗継割引も適用している)であるし、「神戸高速線」を表にだした書かれ方は各駅で見受けられる。
▲神戸高速線大開駅の入口。「阪神電車大開駅」とは書いていない。
▲左側:平成24(2011)年3月改正時点での新開地駅時刻表は「神戸高速線」、平成28(2015)年3月時点では「阪神電車」と変化がある。右側:花隈駅時刻表は敢えて「阪急」の文字が略されている。
更にこの間、阪急阪神が合併したことにより神戸高速は神戸市が出資したままではあるが阪急阪神HDの子会社になったり、北神急行の線路を保有していたり(2020年6月に市営化)、補助金の関係から阪急・阪神・山陽の駅舎を保有・改良するといった事業、地下街「メトロこうべ」の営業などを行っている。
▲(引用:神戸市会外郭団体に関する特別委員会の資料 神戸高速鉄道株式会社について19ページより)
参考文献:日本的都市鉄道整備の一手法:神戸高速鉄道のケース(正司健一,關西大學商學論集, 2005年10月,50巻, 3-4号)
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