【連載】鉄道運賃法制度の概観(7.バリアフリー料金・協議運賃・独禁法特例法)
2023年12月に頒布した「旅するマネージャーの落書き その1」で書き下ろした「鉄道運賃法制度の概観」を今回ブログの連載として再投稿してみようと思います。もっとも執筆後1年半経っているのでそのことを踏まえつつ書くとともに、せっかく買ってくださった方が居るので全部が全部おおっぴろげにはならないようにしたいと考えています。
※もともとの書き下ろしでは、「運賃(認可)を争う方法」がついていましたが、カットします
鉄道駅バリアフリー料金制度
鉄道駅バリアフリー料金も加算運賃と同様、特定目的により設定されるものである。2021(令和3)年5月28日に閣議決定された第2次交通政策基本計画で「鉄道駅のバリアフリー化の推進は、エレベーターやエスカレーター、ホームドア等の整備を通じ、高齢者や障害者だけでなく、全ての利用者が受益するとの観点から、都市部において利用者の薄く広い負担も得てバリアフリー化を進める枠組みを構築するとともに、地方部において既存の支援措置を重点化することにより、従来を大幅に上回るペースで全国の鉄道施設のバリアフリー化を加速する。」と目標立てられているところを受けて新設された制度である1。
なお、制度創設には補助財源の不足も理由に挙げられる。エレベーターや内方線付き点字ブロックなどの設備を含む駅のバリアフリー化については内容に応じた種々の補助制度があり、鉄軌道事業者の負担が1/3程度にまで軽減されているもののである2。しかしそれでも、特にホームドアの設置は、場合によっては駅ホーム自体の補強も必要となるために、設備投資額が過大になる一方で、利用者の多い駅への設置の必要性は列車運行の安全性確保からして言うまでもない。鉄道事業者にとってこのような制度で費用を賄えることの意義は大きいと言える。
2021(令和3)年12月28日に鉄道事業法施行規則が改正され、同規則34条1項4号に「利用者の円滑な移動及び施設の利用のために設けられる設備による安全かつ円滑な運送の確保に係る料金」として記載があり、届出により設定できる。設定に際しては国土交通省鉄道局による通達「軌道法施行規則第21条第2項第4号に規定する料金及び鉄道事業法施行規則第34条第1項第4号に規定する料金の取扱いについて」でその取り扱いが詳細に定められている。
軌道法施行規則(大正十二年内務省・鉄道省令)21条2項4号には「利用者ノ円滑ナ移動及施設ノ利用ノ為ニ設ケラルル設備ニ依ル安全且円滑ナ運送ノ確保ニ係ル料金」として記載されている。ここまでご丁寧にカナ書きである。
同通達によると、届出の際には、「バリアフリー整備・徴収計画」を添付しなければならない。その際には事業者名、整備方針、料金額、対象駅、総徴収額、総整備額、整備内容を記載するものとされている。整備内容としては、ホームドア、ホーム柵、点字ブロック、エレベーターなどが挙げられる。これらの受益負担の関係を明確にするために整備等計画や進捗状況をHPなどで公表しなければならないとされている。
本稿執筆時点で届出をしている事業者は、JR東日本、東京メトロ、阪急、阪神、西武、小田急、神戸電鉄、京阪、Osaka Metro、山陽電鉄、JR西日本、横浜高速鉄道(みなとみらい線)、西鉄、東武、相鉄、JR東海、京成の17社である3(※廃止及び廃止予定の事業者に取り消し線を付した)。2022年~2023年辺りで運賃改定を申請している大手民鉄事業者(東急、近鉄など)は運賃改定による増収での設備投資を行っていることになる。実際の加算状況を見てみると、1乗車おとな10円(こどもは加算の上半額にする)、通勤定期券においては1か月300~360円程度で、通学定期券には設定しないというのが実際上の運用である。前掲している通達においても「本料金制度が、第2次交通政策基本計画における「都市部において利用者の薄く広い負担も得てバリアフリー化を進める枠組みを構築する」との考えに基づき創設されたものであることを踏まえ、利用者に過度の負担感を与えないものとする必要がある。また、通学定期料金については免除するなど家計負担への配慮を行うこととする。」とされている。
協議運賃制度
鉄道事業法は2023(令和5)年10月1日施行の改正(令和5年法律第18号)があり、その点について触れる。鉄道事業法16条4項から7項が以下のように追加された(以前の4項・5項は8項・9項に繰り下げ)。
4 鉄道運送事業者は、次に掲げる者を構成員とする協議会において、地域における需要に応じ当該地域の住民の生活のための旅客輸送を確保する必要がある路線の区間に係る旅客運賃等について協議が調つたときは、第一項及び前項の規定にかかわらず、当該協議が調つた事項を国土交通大臣に届け出ることにより、当該旅客運賃等を定めることができる。当該協議会において当該旅客運賃等の変更について協議が調つたときも、同様とする。
一 当該区間をその区域に含む市町村(特別区を含む。)及び都道府県
二 当該旅客運賃等を定めようとする鉄道運送事業者
三 当該区間を管轄する地方運輸局長
5 前項第一号に掲げる者は、同項の協議をするときは、あらかじめ、公聴会の開催その他の住民、利用者その他利害関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。
6 第四項の旅客運賃等は、当該旅客運賃等が適用される路線の区間に係る鉄道事業の能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものとしなければならない。
7 第四項の旅客運賃等を届け出た鉄道運送事業者は、国土交通省令で定めるところにより、当該旅客運賃等が適用される路線の区間に関する収支の状況を公表しなければならない。
要は地域輸送に関わる路線の運賃については、地方自治体、事業者、地方運輸局長らで協議のうえ運賃を決めて届出により運賃設定をすることを可能とするものである(ただし、変更命令が出得ることは通常の運賃設定・改定と同じである。また、第6項は第2項と同じ言い回しであることに留意)。このような制度は協議運賃制度と呼ばれるものであり、乗合バスに関しては2006(平成18)年道路運送法改正により先行して導入されており(同法9条4項)、昨今の運賃の在り方の見直しに伴い鉄道事業においても導入されたものである。この制度はまだ開始したばかりであるため具体例を挙げることはできないが、乗合バスであればコミュニティバスを中心に導入されているほか、高速バスにも適用されている例がある(例として新城名古屋藤が丘線)。
なお、第7項にいう収支の状況の公表は、鉄道事業法施行規則33条の2に規定されており、事業年度ごとに年度末から8か月以内に、インターネットなど適切な方法で行うことを求めている。
地域公共交通利便増進事業・独占禁止法特例法上の共同経営計画
地域公共交通の活性化及び再生に関する法律(平成19年法律第59号、本節において単に法という)は、今後民間事業者だけで地域交通が成り立たなくなっていくことを課題とし、地方自治体が中心になって、交通手段の確保に取り組んでいくために制定されている。同法に基づき地方自治体が中心となって作られるマスタープランが「地域公共交通計画」であり、2023(令和5)年9月末現在で889件の地域公共交通計画が作成されている4。
同計画中、法に定める事業を含んだ計画で、国土交通大臣による認定を受けたもの(地域公共交通特定事業:同月末時点で85件認定)については様々な特例措置を受けることができる。例えば、2023(令和5)年8月に開業した宇都宮・芳賀LRTは「軌道運送高度化事業」としての認定を受け、軌道事業のみなし特許(法10条)を受けている(ただ、同法を利用する意義は、上下分離をすることと、法12条による地方債の特例のほうが大きい。特例の適用を受けないのであれば単に軌道法に基づき特許を得ればよいだけである。)。このほか法は計8種類の事業とその特例(手続きの一元化など)を設けている。
この中の一つが「地域公共交通利便増進事業」である。これは地方公共団体が中心として民間運送事業者(鉄道・軌道・バス・船舶)の路線再編、パターンダイヤ化、均一運賃化、通し運賃の設定を含んだ旅客運送サービスの維持を図るもの(法2条13号)である。ただ、事業の認定を受けるには各事業法の認可基準を満たす必要があるので、基準が緩和されるわけではない(法27条の15第2項3号~10号)し、運輸審議会への諮問も行われる(法27条の15第3項)。ただ、法27条の16~27条の19で、各業法で必要とされる許可・認可・特許・登録・届出が行われたものとみなされる。記事執筆時点で、同制度による鉄軌道事業の運賃改定は広島電鉄が実施している5。
また、均一運賃制度などを実施する場合にはカルテルにあたるため、独占禁止法特例法(令和2年法律第32号)に基づく共同経営計画等を作成し、認可を受ける必要がある。現在認可を受けている共同経営計画は上記の広島電鉄を含む広島市中心部(広島電鉄とバス会社6社)や、熊本地域(熊本電鉄ほか計6社)、徳島県南部(JR牟岐線と徳島バス)、JR山田線と106急行バスなど7計画ある6。【おしまい】
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