【連載】鉄道運賃法制度の概観(5.審査関係その他)

鉄道運賃法制度の概観

その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7

2023年12月に頒布した「旅するマネージャーの落書き その1」で書き下ろした「鉄道運賃法制度の概観」を今回ブログの連載として再投稿してみようと思います。もっとも執筆後1年半経っているのでそのことを踏まえつつ書くとともに、せっかく買ってくださった方が居るので全部が全部おおっぴろげにはならないようにしたいと考えています。

新幹線特急料金

その2でも述べたとおり、新幹線特急料金(自由席特急料金)も上限運賃認可の規制に服する。収支率の計算も当然運賃及び新幹線特急料金を収入として計算することになる。その際に問題となるのが、新幹線の営業キロと適用運賃(幹線か、地方交通線か)である(参照:新幹線運賃差額返還訴訟、最二小判昭和61(1986)年3月28日集民第147号467頁)。

これは並行在来線につき、JRによる営業が続くか否かで変わってくる。並行在来線が分離される場合、または並行する路線がない場合(例えば、西九州新幹線の武雄温泉~諫早間)は、建設キロに基づき営業キロを設定することとし、同区間の運賃は隣接(結節)する路線に設定されている運賃(例えば、西九州新幹線の武雄温泉~諫早間であれば、同線に結節する長崎線に設定されている幹線運賃)を適用する。この場合は、鉄道事業法16条1項の「運賃等の設定等」に当たらないものとして取り扱う通達1があり、地方運輸局長への事前報告(鉄道事業等報告規則3条1項)事項とされている。

他方引き続きJRが並行在来線を営業する場合(例えば、西九州新幹線の諫早~長崎間)は、在来線と新幹線を同一のものとして取扱い、同線に設定されている運賃を適用する。こちらは原則通り認可事項とされている2

認可手続きが不要なもの

新線開業の場合などに運賃認可が不要となる場合がある。先述の通達に即して説明する。なお、通達上では運賃の設定等に当たらないものとし、地方運輸局長への事前報告事項とされている。その場合には鉄道事業法施行規則33条の規定により、運賃の届出の例に倣うことになる。

(1)新規開業の際に隣接区間に適用されている運賃を適用する場合。
先述の西九州新幹線の武雄温泉~諫早間はこれに当たる。なお、増設線に同じ営業キロを設定する場合(先述の西九州新幹線の諫早~長崎間など)や、駅間で上限認可を受けている特急料金(新幹線が三角表で特急料金を定めていることを指している)についてはこの適用を受けない(つまり原則通り認可を得る必要がある)。
また、新規開業により片道の営業キロが既に設定されている営業キロを超える場合にも、新たな運賃等の設定に当たるとして、運賃認可を受ける必要がある。この例として福岡市交通局の七隈線(天神南~博多間)の開業が挙げられる。同区間開業前の6区は「19キロメートルを超え20キロメートルまで」としていたが、「19キロメートルを超えるもの」とのみ変更する運賃改定(及び上限運賃認可申請)がなされている3

また、加算運賃やJR4社(北海道・東日本・東海・西日本)の地方交通線運賃を適用する場合もこの例外である。地方交通線のみを乗車するものを指している。JR四国・JR九州の地方交通線は擬制キロの設定になっているためのことであろう。

(2)駅の移設・新設に伴う場合。これも(1)と同様、増設線の場合で、既設線に対応駅がない場合や、駅間で上限認可を受けている特急料金、及び加算運賃やJR4社の地方交通線運賃の場合はこの適用を受けない。

(3)複数経路選択可能な区間で短絡経路の適用を設定・廃止する場合。旅客営業規則での選択乗車・迂回乗車の改廃がこれに当たるのだろうと思われる。

(4)途中下車や通用期間に関する取扱方の設定を行う場合。

(5)列車名を特定した新幹線の特急料金等について、単に列車名称の変更を行う場合。この場合には、速達性や停車駅等が同様であることを記載した書類を添付するものとされている。

地方運輸局長への委任

ここまでで述べた運賃認可申請は、全て国土交通大臣を通して運輸審議会が諮問の上、国土交通省本省で処理されている。しかし実際には、すべての鉄道事業者の運賃認可が国土交通大臣による認可ではない。一定規模以下の事業者については、地方運輸局長に認可権限が委任されている。補足して説明しておくと、地方運輸局は国土交通省の出先機関(地方支分部局)であり、北海道・東北・関東・北陸信越・中部・近畿・中国・四国・九州の9局が置かれている。

地方運輸局長への委任基準は鉄道事業法施行規則71条1項5号の2イで、「年間の旅客の運賃及び料金の収入額又は収入予想額(中略)百億円を基準として国土交通大臣が告示で定める鉄道事業者」としている(軌道法施行規則23条の2第1号も同じ規定。また、鉄道事業と軌道事業の収入額は合算である)。そしてここにいう告示(平成8年運輸省告示175号)によって、123社が権限委任となる事業者に指定されている。

平成14年4月施行のものはHP上に掲載があるが、最新版は行政文書開示請求をするほかなかった4

最新分は情報公開請求のうえ入手済→こちら

また、この施行規則及び告示は2023(令和5)年3月17日に改正されている。改正までは30億円と定められていた。改正の理由として、国土交通省鉄道局は「今後の運賃改定においては、…運輸関係の事務を総合的かつ一元的に所掌しており、また、これらの事業間の総合調整に関する事務も担当している地方運輸局長への委任権限を拡充する必要がある」としている。これに伴い、同告示が改正され、埼玉高速鉄道、千葉都市モノレール、舞浜リゾートライン、横浜シーサイドライン、伊豆急行、愛知環状鉄道、泉北高速鉄道、北大阪急行、神戸電鉄、神戸新交通、広島電鉄、広島高速鉄道の12社が追加されている(上記123社の内数)。こちらについては記事を書いているので、そちらを参照いただきたい。

この影響を受けている会社の例として北大阪急行を挙げて説明する。北大阪急行は2017(平成29)年に運賃認可申請をしている。その際には1区運賃を90円から100円、2区運賃を110円から120円、3区運賃を120円から140円に改定している。この時の申請は国土交通大臣に申請している(この時の年間運賃収入予想額は約55億円であった)5。また、2019(令和元)年10月の消費税増税にかかる運賃改定も国土交通大臣に申請している6。他方、上記告示の改正の後である2024(令和6)年春の南北線延伸線の開業に当たっての4区、5区、加算運賃の設定に当たっての上限認可申請については、近畿運輸局長に申請している(この時に示されている年間運賃収入予想額は南北線延伸線にかかるものだけであるが、加算運賃込みで約11億円である)7

地方運輸局長に委任された場合でも、任意の意見募集としてパブリックコメントは同様に実施している。他方で、運輸審議会のような諮問機関があるわけでもないためその資料が出てくることもないから、申請及び審査にあたっての資料があまり出てこないことになる。

「運輸審議会は国土交通大臣の行う処分等に係わるものを処理する諮問機関であり、地方運輸局長権限による運賃設定認可の場合、運輸審議会に諮ることはないため、同様の資料の掲載はありません。」とのことである8

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  1. 平成12年3月1日 鉄業第16号「鉄道事業法の一部改正に伴う鉄道の旅客の運賃及び料金の設定等に係る取扱いの簡素化について」 ↩︎
  2. 鉄道局「九州旅客鉄道株式会社における西九州新幹線(武雄温泉・長崎間)の開業に伴う特別急行料金の上限設定について(ご説明資料)」2022年5月12日
    鉄道局「北海道新幹線(新青森~新函館北斗間)の運賃について」(下記PDF9頁)2015年10月15日 ↩︎
  3. 九州運輸局「福岡市交通局の鉄道事業の旅客運賃上限設定認可について」2022年8月2日 ↩︎
  4. 国土交通省「鉄道線路の使用条件及び譲渡条件並びに旅客の運賃及び料金の認可の権限の委任に係る鉄道事業者及び軌道経営者を定める告示」 ↩︎
  5. 鉄道局「北大阪急行電鉄(株)の旅客運賃上限変更認可申請について」2016年12月22日 ↩︎
  6. 鉄道局「消費税率引上げに伴う鉄軌道事業者の旅客運賃等の上限変更認可について(大臣権限事業者分)」2019年9月5日 ↩︎
  7. 近畿運輸局HP「旅客運賃の上限設定(変更)認可について」2023年9月25日閲覧 ↩︎
  8. 近畿運輸局「北大阪急行電株式会社の鉄道事業及び軌道事業の旅客運賃の設定認可申請に関する意見募集の結果について」 ↩︎