【連載】鉄道運賃法制度の概観(2.条文の確認)

鉄道運賃法制度の概観

その1 その2 その3 その4 その5 その6 その7

2023年12月に頒布した「旅するマネージャーの落書き その1」で書き下ろした「鉄道運賃法制度の概観」を今回ブログの連載として再投稿してみようと思います。もっとも執筆後1年半経っているのでそのことを踏まえつつ書くとともに、せっかく買ってくださった方が居るので全部が全部おおっぴろげにはならないようにしたいと考えています。

鉄道運賃法制度

条文構造

まず鉄道事業法の条文を読んでみる。

鉄道事業法16条(旅客の運賃及び料金)

1 鉄道運送事業者は、旅客の運賃及び国土交通省令で定める旅客の料金(以下「旅客運賃等」という。)の上限を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
2 国土交通大臣は、前項の認可をしようとするときは、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであるかどうかを審査して、これをしなければならない。
3 鉄道運送事業者は、第一項の認可を受けた旅客運賃等の上限の範囲内で旅客運賃等を定め、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。

4~7 略(後述)

8 鉄道運送事業者は、特別車両料金その他の客車の特別な設備の利用についての料金その他の国土交通省令で定める旅客の料金を定めるときは、あらかじめ、その旨を国土交通大臣に届け出なければならない。これを変更しようとするときも、同様とする。
9 国土交通大臣は、第三項若しくは第四項の旅客運賃等又は前項の旅客の料金が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該鉄道運送事業者に対し、期限を定めてその旅客運賃等又は旅客の料金を変更すべきことを命ずることができる。
一 特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものであるとき。
二 他の鉄道運送事業者との間に不当な競争を引き起こすおそれがあるものであるとき。

第1項では、鉄道運賃の規制は上限認可制度となっている。法令上この制度になったのは規制緩和の一環での1999(平成11)年の改正によるもの1であり、それまでは単純に運賃を認可するものであり、割引料金については運輸大臣への届出制という構造であった[ii]。同改正によって鉄道事業者の経営判断により上限運賃の範囲内で実施運賃を決められる。そのため、実際に利用者が払う運賃は認可を受けている上限運賃よりも低い場合が多々ある。

平成11年法律49号による改正。鉄道事業法全体が全て(需給調整規制を含む)「免許」から「許可」に改められるほか、廃止について許可制ではなく、届出制に変更されるなど、現行鉄道事業法にかなり近い法制度に変わった改正である(こののちに貨物運賃についての規制が撤廃されている)。改正後の条文を組み込んだものではない条文は衆議院HPで確認することができる。
なお、改正以前でも、1996(平成8)年12月11日鉄業第80号「新しい旅客鉄道運賃制度の制定及び適用について」で、1997年1月1日以降の運賃改定以降は総括原価方式での上限価格制が導入されている。また、後述の総括原価の計算期間も複数年度に延長されている2

例えばOsaka Metro(大阪市高速電気軌道)の1区運賃は190円、2区運賃は240円であるが、上限運賃は1区220円、2区250円である(いずれも後述の鉄道駅バリアフリー料金10円を含む)。これは大阪市交通局時代に1区運賃20円、2区運賃10円を値下げした分がそのまま残っているものである(参考として2区運賃の引き下げについてリンク)。なお、これらのような上限運賃を下回る運賃を実施することが申請時に予定されている場合でも、上限運賃を基に鉄道事業法16条2項にいう審査及び処分を行う。

また、近時の傾向として、沿線の宅地開発などの一環として、ICカードに限って小児運賃を(一時的なキャンペーンではなく恒久的に)大幅に値引くという例がある。その例を順次挙げるとすると、小田急電鉄(2022年3月12日から、50円)、京浜急行電鉄(2023年10月1日から、75円(ただし空港線加算運賃は除く))、泉北高速鉄道(同日、50円。愛称は「Go50キッズ」)である。これらは実施運賃である。

また、つくばエクスプレス線(首都圏新都市鉄道株式会社)が申請している上限運賃では、小児1円単位運賃を200円に引き下げている。これは、上記と異なり、上限運賃そのものである。

また、第1項にいう「国土交通省令で定める旅客の料金」は鉄道事業法施行規則32条1項に規定されていて、「特別急行料金等であって、新幹線鉄道に係るもの」としている。もし新幹線特急料金に規制が及ばず、JRが自由に新幹線特急料金を吊り上げられるとすると、およそ誰も新幹線に乗れなくなってしまうというからという理由でこのように特別に規制をかけていると考えられる。実際上は(新幹線乗車への最低限の対価となるという意味で)自由席特急料金が認可対象となっている。なお、指定席特急料金は2022年4月の4シーズン制が導入されたように、届出により改定できるものとなっている。

第3項は実施運賃を届出制(つまり、認可が要らないが、その旨を国土交通大臣に示さねばならないということ)と定めている。ただし、定期乗車券(通勤定期券、通学定期券)は現状これに含まれず、第1項の上限運賃認可規制の対象となっている。また、第8項は新幹線(自由席特急料金)以外のグリーン料金(特別車両料金)、特急料金、座席指定料金などに当たるものについては変更命令を定める第9項はあるものの、料金を自由に定めたうえで届出制としている(鉄道事業法施行規則34条1項1号から3号参照。4号については後述)。

なお、届出での実施運賃はおおよそ3通りに区分される3,4。第1が所定運賃・料金で、普遍的に適用されるものである。前述のOsaka Metroと北総鉄道の例はこれにあたる。また、競合区間の特定運賃もこれに区分される。第2が普通割引運賃・料金で、回数券、往復割引、乗継運賃、学生割引、障害者割引、プリペイドカード利用による割引などが挙げられている。第3は営業割引運賃・料金で、需要喚起を目的として体系性の範囲外で設定されるものである。JRで言えば企画乗車券や周遊券がこれに当たる。

第9項の運賃変更命令についての実務運用につき、通達5がある。届出のあった運賃又は料金が要件に該当するおそれがある場合、判断がつかない場合には調査に入り、その旨が公表される。そのうえで、要件に該当するとされた場合には変更命令がなされる。

1号の「不当な差別的取り扱い」で挙げられている具体例は「鉄道運送事業者が旅客…の信条、宗教等によって異なる運賃等を適用する場合」である。
2号の「不当な競争」については、「旅客鉄道運送事業者が路線別又は区間別に異なる運賃(原則として、加算運賃、乗継運賃を除く。)の設定等を行い、かつ、その最低額が最高額を概ね二割以上下回る場合」とされている。
このほかは例示がなく、1号は運賃体系からの整合性、社会通念、社会政策上の観点から、2号は当該路線の特性、継続性、他事業者の影響を勘案して判断するとされている。具体的な判断をしている例のパブリックコメントへの鉄道局の応答として、JR西日本京阪神エリアのものが挙げられる。

なお、運賃・料金の「条件ノ加重」、つまり値上げを行う際には、運賃改定申請とその認可、届出とは別に「関係停車場」つまり駅への公告を7日間以上行わなければ実施することができないと定められている(鉄道営業法3条2項)。

鉄道営業法は3条1項で運賃などの運送条件は「関係停車場」に公告しなければならないとしている。また、鉄道運輸規程(昭和17年鉄道省令3号)4条にも運賃表・料金表の備え付け、8条1項で当該駅からの運賃表の掲示をしなければならないとしている。

このほか、各社の旅客営業規則(運送約款)を改正することでようやく当該改定運賃を収受できるわけだが、旅客営業規則は定型約款(民法548条の2以下)であるため、民法の規定にも服することになる。ただし、鉄道営業法18条の2により修正が加えられており、事業者(=定型約款準備者)は旅客営業規則を公表しておくことにより個々の利用者(=相手方)へあらかじめ旅客営業規則を契約の内容とする旨を逐一表示しなくても個別条項への合意が擬制される。定型約款の変更にあたっては同法548条の4第2項で、「その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。」としている。

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脚注など

  1. 衆議院「鉄道事業法の一部を改正する法律」 2023年9月25日閲覧 ↩︎
  2. 平成8年鉄業第80号「新しい旅客運賃制度の制定及び適用について」 ↩︎
  3. 平成12年鉄業第12号「鉄道の旅客の運賃及び料金に関する職権等について」 ↩︎
  4. 平成12年鉄業第13号「軌道の旅客の運賃及び料金に関する職権について」 ↩︎
  5. 平成12年鉄業第15号「運賃及び料金の変更命令に係る取扱要領」 ↩︎